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ベルが大量の回復薬の納品の為に作業部屋へ籠ることが多くなったことで、葉月の掃除はとても捗っていた。

さすがに主要な取引先が無くなるのはマズイと、ずぼらな魔女も覚悟を決めたらしい。


「うん、随分と片付いたよね」

「みゃーん」


荷物を除けて空けた棚を拭きながら、葉月は充実感に浸っていた。その脚に擦り寄ったりじゃれたりしながら、くーは尻尾をピンと伸ばしてご機嫌に付いて回っている。


拭き終わった棚にはまず、ソファーに積み上げられて放置されていた大量の書籍を並べていく。真っ先にするのは、愛猫のお昼寝コーナーの確保だ。猫飼いとして当然のこと。

くー自身は本の上で寛ぐことを気に入っているようには見えたが、万が一にも積み上げられた本がバランスを崩したらと思うと気が気じゃない。安全第一だ。


「どう並べたらいいんだろ……?」


この世界の文字は、葉月には読めない。日本語ともまるで違う、初めて見る文字。なので本を中身で分類するということができず、困った顔で一旦手を止める。

抱えた書籍の一冊を試しにパラパラと捲ってみる。沢山の植物が描かれているから、薬草図鑑といったところか? 一緒に載ってる地図はそれらの生育分布図とかだろうか?

絵や図があって何となく内容が推測できそうな蔵書もあるが、文字ばかりだとさっぱり分からない。


「……ま、いっか。適当で」


大きさや表紙の紙の種類など、見た感じで区別して並べていく。床や家具の上に雑に置かれて積まれているよりは、本の題名がよく見えるようになった分、これまでよりは探しやすいはずだ。


ああ見えて研究熱心なのか、もしくは読書家なのか、魔女の館にある書籍の量は膨大だった。

それが片付いただけでも部屋の中が随分とすっきりしたように思える。壁面の造り付けの棚が一面分、天井までびっしりと書籍だからけになってしまった。


固く絞った布を使って、物が無くなったソファーの汚れを念入りに拭き取る。あれだけ上にいろいろ圧し掛かっていたのに、全くヘタった様子もない。革カバーの艶も少し磨くだけで簡単に蘇ったのは、元々それ相応の良い家具なのだろう。

改めてよく見れば、この館の調度品はどれも作りが良くて高そうだ。ただ、扱いが雑過ぎて、その価値は完全に埋もれてしまっていたけれど。


その調度品の中でも特にこの部屋で存在感を表していた大きなダイニングテーブルとその椅子達は、勿体ないことに一度も使うことが無かった。これまでダイニングテーブルは食料品と薬草のストック置き場になっていた。食事する時はいつも、窓際に設置されている小さなティーテーブルで。


作業部屋に移動し切れていなかった残りの薬草や瓶類は、空いていた木箱にまとめて作業部屋の扉の近くに置き直す。使用する場所に置いておくのが一番使い勝手が良いはずだから、ベルが出てきたら運び入れて貰うことにする。


これを機に、ベルの薬の納品ペースが上がると良いのだけれど……。


「食べ物は、やっぱり調理場かなぁ?」


ベルが手を加えて調理するような物はせいぜいスープくらい。ほとんど活用されていないと言ってもいい調理場

そちらも木箱や袋に入った何かが床やそこいらに転がっていたのを思い出し、葉月はウンザリ顔をする。出入りが少ない分、何かとんでもない物が出て来そうで怖い……。


回復薬の納品が終わり、ベルの作業がひと段落するまでは、せめて食事の準備くらいは請け負おうと考えていたが、何がどれだけあるかを確認しないと何も作れないし始まらない。

とりあえず、このフロアに点在している食料品を木箱へまとめ入れ、奥にある調理場へと向かう。


飼い主に付きまとうのも飽きたのか、猫はキレイになったソファーの匂いを十分に確かめてから飛び乗り、その上でゆっくりの毛繕いを始める。調理場まで付いてくる気はないらしい。


フロア奥の調理場もまた、想像以上に物に溢れている。食器類だけはかろうじて棚に収められているが、作業台や床に置かれている麻袋や木箱へ入れられているのは食料品だろうか?

恐る恐る、床に放置されていた麻袋の一つを覗いてみる。


「お芋かな?」


葉月の世界のジャガイモと形はよく似ていたから、芋の一種なのは間違いなさそうだ。握り拳2つほどの大きさの緑色の芋は、見た目からは味の想像はつかない。長い間も放置されていたようだが、腐ったりカビが生えたりはしていない。だが、ガッツリと芽が伸びて、麻袋の中は緑の新芽でワサワサしている。


「種芋だね、ここまで育ってると……」


芋の部分は芽に栄養を取られたせいでシワシワになっているから、もう食べられそうもない。だからと言って捨てるのは勿体ないし、庭の片付けも終わったら畑でも作って植えてみようと思い立つ。

他の袋や箱の中からも育ち過ぎたド根性な野菜がいくつか発掘したので、それらはとりあえずまとめて保管する。いきなり充実した家庭菜園ができそうな予感だ。


まともに料理する人がいないから新鮮な食材は全くなかった。食材の大半が保存食だった。

猫とゴミ屋敷の魔女 ~愛猫が実は異世界の聖獣だった~

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