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【皐月side】
「ーは?」
電話口から聞こえてくる父さんの言葉に、思わず聞き返す。
耳に当てたスマホから、いつもと変わらず抑揚のない、父さんの声が聞こえてくる。
『だから、皐月。白井さんの家で居候してくれ』
「…意味わからないんだけど」
『父さん、海外出張でしばらく家出るんだ。まわりに親戚もいないしな』
「いきなりすぎない?」
驚きを通りこして、あきれるほかなかった。
父さんとはあまり話さないし、もともと寡黙な人だったから、
考えていることもよくわからなかったけど。しぶる俺に、父さんはため息まじりに言った。
『べつにいいんだぞ、八千代さんと暮らしたって』
「…………」
くらり、と頭が揺れるような感覚におちいる。
もうずいぶん顔を合わせていない母さんの顔が頭にちらついた。
『皐月?』
「……わかった。そのシライサンって人がよければ、俺はべつにいいよ」
『そうか』
無機質な声で、父さんがそう相槌を打った。
向こうだってわかっているから、きっと気をきかせてくれたんだろう。
……俺が、今のままじゃ母さんに会えないことを知っているから、
信号待ちに差しかかり、俺は立ち止まる。通り過ぎる車をながめながら、
「居候はいつから?」
と、聞いた。
『明日からだ』
「……は?」
くっと奥歯をかみしめながら、もう一度聞く。