森の中──私はただジッと、身を潜める。
『ちゃんと隠れてるんだよ』
そう言われたから。そんな事言われなくたって、私はただ隠れるしかないのに。
もう、どれぐらいこうしているんだろう──? いつまで経っても、誰も探しには来てくれない。
私以外は、もう見つかったのかな? きっと、パパもママも帰りの遅い私を心配しているはず。何も言わずに遊びに出ちゃったから……。
だから、早く見つけて欲しいのに。早くお家に帰らないと。
──静まり返った森の中、誰かの足音が近づいてくる音がする。もしかしたら、私を探しに来てくれたのかもしれない。そうは思っても、私は物音一つ立てずにただジッとその場で身を潜めた。
森に住む動物のものなのか、私の隠れているすぐ側で少し呼吸の荒い音が聞こえてくる。
『見つかったらダメだよ』
そう言われた私は、それでもただ黙って隠れる。ただジッと、見つかるまで黙って隠れているしかないから──。
いつの間にか集まった数人の人達が、私のすぐ近くでザクザクと音を立て始めた。何やら、土を掘っているようだ。
暫くしてその音がピタリと鳴り止むと、私の瞳に眩《まばゆ》いほどの光が差し込んだ。その瞳に反射されて映っているのは、沢山の大人達の顔。その近くには犬もいる。
ああ──やっと、見つけてもらえたんだ。もう、隠れなくていいんだ。
これでやっと、お家に帰れる。
「──っ見つけたぞ!!!」
そんな大きな声をキッカケに、更に集まりだした人々。無線のスイッチを入れた男が、神妙な面持ちでその重い口を開いた。
「──こちらA班。大腿部発見場所より、南西1キロ地点で少女の頭部発見。……南西1キロ地点で、少女の頭部発見」
【解説】
語り部である少女は、森に埋められていた頭部。私以外とは、バラバラにされた身体のこと。
この少女の身に、一体何があったのでしょうか……。
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