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「まさか……貴方達が美央を?」
信じたくはないが辻褄は合う。妹は複数に暴行の跡があった。
それにこの連中ならやりかねない――
「あ? 誰よそれ?」
亜美の問いに一人が惚ける――というより、手に掛けた数多くの被害者の名前等、本気で覚えていないだろうし、知る必要もない。
「ああそういや、学生証パクった時、女の名前がそんなんじゃなかったっけ?」
もう一人が思い出したように呟いた時、亜美は確信に至った。
“間違いない! 美央を襲ったのはこの連中だ”
何という因果。よりにもよって、手掛かりの道を閉ざされたその日に、探していた者達と鉢合わせるとは。
しかも現状、妹と同じ立場となって。
「えっ――何々? もしかしてお姉さん?」
「マジっ!?」
三人もその事実に、意気揚々と声が上がる。
「ひょぉ~ラッキー! 親子丼ならぬ、姉妹丼ってか? ギャハハ」
「あの女も良かったからなぁ。よっしゃ、後で二人揃って調教といくか」
“こっ――の下衆野郎共が!”
愉快に笑い続ける奴等は、美央がその原因で命を絶った事を知らないのだ。
亜美は余り悔しさに歯軋りする。
何としてもこの連中を警察へ突きだし、法の裁きを受けさせねば。
妹の無念さだけではない。これまで同じように犠牲となった女性の為にも、そしてこれから悲劇に見舞われる女性を増やさない為にも、この連中は野放しにしてはおけない。
だが、この状況は絶体絶命。それでも只で屈するつもりはない。
「オイオイ、それより自分の心配しろよ」
三人は左右から亜美に掴み掛かり、そのまま力ずくで地面へ押し倒した。
身動き出来ぬよう、二人が両腕をしっかりと押さえ、もう一人がのし掛かる。
「オイ順番だからな。早く終わらせろよ」
「分かってるって、クヒヒ」
後はこのまま為す術もなく――凌辱されるのみ。
「くっ――」
だが亜美はこのまま抗わないつもりは毛頭無かった。
“こんな奴等にっ――”
最後の最後まで抵抗してみせる。
男がチャックを開ける為、腰を浮かしたその瞬間――
「うぐっ!?」
膝を思いっきり、急所へと突き上げていたのだ。
「ぎゃああぁぁぁぁ!!」
まさかこの状況で反撃されるとは思っていなかったのだろう。男は絶叫と共に地面をのたうち回った。
「おっ――おい大丈夫か?」
流石に二人も心配そうに、のたうつ男の下へ駆け寄る。
両腕の戒めは解かれた。後は全力でこの場から逃げるのみ。
亜美は身を起こそうとするが、アルコールの影響もあって身体の自由が上手く利かない。
男に気を取られている今が、逃げる絶好の機会だというのに、思うようにいかない身体がもどかしかった。
「こっ――のクソアマがぁぁ!!」
復活した訳ではないだろうが、急所を蹴りあげられた男が、絶叫と共に緩慢な亜美へ襲い掛かる。
「一度ならず二度までも! もう勘弁ならねぇ!! 痛めつけながら犯してやんよ!」
再度押し倒される形となってしまい、今度はその首を両手で絞められる事となった。
「おっ……おい殺すなよ?」
流石に呆気に取られて成り行きを見るしかない二人も、その行動に不安になる。
「うぅっ――」
首を締め上げながら、亜美は意識が混濁してきた事を感じた。
“駄目っ――落ち……”
力の無い弱い自分。悔しかった――何も出来ず終わる自分が。
そしてそのまま意識は途絶えた。気絶したのだ。
「ようやく大人しくなりやがったか……。手間掛けさせやがって」
亜美の意識が無くなったのを見てとり、男は手の力を緩める。
「こっ……殺したんか?」
微動だにしない亜美に、二人は狼狽え始めた。
「心配すんな。俺は柔道経験者よ? ちょっと気絶させただけだ」
締め技で気絶させるのは、経験者でないと難しい。男は自慢気に、下品な笑みを二人に振り返って見せた。
「ビックリさせやがって」
「さあ、さっさとヤッちまおうぜ!」
安心したのか三人は砂糖に群がる蟻のように、亜美の衣服を剥ぎ取りに掛かる。
「まあ死んだら死んだで、埋めちまえば問題ねぇ」
「ギャハハ、言えてる」
この三人にとって強姦はおろか、殺人を犯す事さえいとわないのだろう。
「……ホント、絵に描いたようなクズだね」
今まさに毒牙に掛けようとした矢先の事。
「――っ!?」
「誰だ!?」
背後から不意に聴こえた“自分達以外”の声に、三人は振り返った。
暴行現場を見られてしまった――。なら当然、彼等に過るのは、目撃者も纏めての口封じ。
見ると其処には幼い少女と、闇に溶け込む長身痩躯。
「んなっ……誰?」
悠莉と幸人の姿が其処に在った。
三人が戸惑うのは、何も目撃された――だけではない。
何故こんな場違いな所に少女が――もそうだが、それ以上に少女の背後の人物が余りに異質過ぎた。
見た事も無いような銀色髪。幸人は既に雫としての執行形態として、この場に現れていた。
雫は動かない亜美へ目をやる。
「大丈夫、気絶してるだけだよ。でもこれって不幸中の幸いなのかもね~」
「そうか……」
すかさず悠莉のフォローにより、雫が少し安堵の表情を見せたのは気のせいではない。
それは亜美の身が無事だった想いと、この執行形態としての姿を、出来れば彼女には見せたくはなかったという想い。
「それにしても助けたいなら、最初っからそう言えばいいのに。ホント素直じゃないんだから~」
悠莉の小言。幸人は口では否定していたが、本心は亜美の力になりたかったのだ。
「まあ、それが幸人お兄ちゃんの良い所なんだけどね」
だからこそ狂座としてではなく、亜美の為に今此処に居る。
「――さてさて、それでも幸人お兄ちゃんの力なら“瞬殺”しちゃうから、ここはボクに任せて」
そしてあくまで此処に来た目的は亜美の救助及び、彼女の願いを遂行する事。
「頼む……」
雫はあっさりと悠莉に任せて身を退いた。
確かに相手を殺さずに仕留めるのに適任なのは、彼女を於いて他にいるまい。それが分かっているからこそ、幸人は最初から悠莉を同行させたと云える。
「うん! 任せて~」
幸人に頼られたのが嬉かったのだろう。悠莉は意気揚々と三人の下へと歩み寄っていった。
「お気の毒……。死んだ方がマシなんじゃねえかアイツラ?」
同じく同行し、幸人の左肩に居座るジュウベエが、そっと耳打ちする。
「その位の荒療治は必要だ……」
雫へ変貌しているとはいえ、今回は手を出すつもりはないのか、幸人は悠莉の動向を見守っていた。
「な……何ゴチャゴチャ言ってやがる!?」
「お……俺らが誰だが分かってんのか? おぅ!?」
三人は怒声を張り上げるが、それは虚勢だった。
雫から感じられる、得も知れぬ絶対的恐怖の悪寒――それは本能的なもの。それでも強がるのは自分達に向かって来るのが、ひ弱そうな少女のみだったからに他ならない。
「えとえと~、“生ゴミ”って事以外はよく知らないんだ。ゴメンね~」
悠莉は立ち止まり、三人を貶す言葉を投げ掛けた。
「なっ……生ゴミぃ!?」
これには三人も敏感に反応。明らかにおちょくられていたからだ。
「ああでもそれじゃ生ゴミに失礼だよね~。生ゴミはリサイクルで世の役に立つけど、アンタ達は何の役にも立たない処か、汚物しか撒き散らさないもんね~アハハ」
相も変わらず、悠莉は悪気無く嘲笑うが、三人は既に怒り心頭。
「ホントは消去すべきゴミなんだけど、亜美お姉ちゃんに感謝しなさいよねアンタ達。でも只で済まそうなんて虫が良すぎるから~――アンタ達にはこれから“お仕置き”を受けてもらいま~す。ああでも安心して、多分死なないとは思うから」
悠莉は畳み掛けるように、三人へこれからの惨劇をさも嬉しそうに促した。
「ぶぶっ――ぶっ殺すぞこのガキャァ!!」
「訳分からん事言ってんじゃねえぞクソガキ!」
当然反論――というより堪忍袋の尾が切れた。三人は暴言を悠莉に投げ返し絶叫する。
「――と思ったけど、やっぱり気が変わっちゃいました~」
“あ! やばっ――”
悠莉の笑顔は変わらないが、その変化を敏感に感じ取ったのはジュウベエだ。
即ち彼女への禁句――“餓鬼扱い”。
「あくまで“この世”での惨事を考えてたんだけど~。生ゴミ以下のアンタ達には特別サービスとして、本当の“地獄”を見せてあげるよ」
当初の予定をいとも容易く変更した辺りが、また悠莉らしい。もう彼女は誰にも止められないだろう。
「――死んだ方が良かった~って思える程の……ね。ああでも、そのまま地獄じゃ芸がないなぁ~」
悠莉は表情こそ笑ってはいるが、そう――目が笑っていない。
「何が地獄だ寝惚けんな! 死ねやクソガキ!!」
「俺らがテメェに地獄見せてやんよ!」
「ひんむいて切り刻んでやろうぜ!」
勿論、彼等にその意味は知る由もない。三人はナイフを片手に、無防備に見える悠莉へ襲い掛かった。
「ぷっち~ん――はい、もう手遅れ~。さあどれにしよっかなぁ?」
もしこれが本当に悠莉以外の“只の少女”であったのなら、本気でそのような惨状に見舞われかねないのだろうが。
「よし、決~めた――」
生憎、彼女が只の少女であろう筈がない。場合によってはSS級さえ超える怪物が今、目の前に居る事に“表”の誰が気付けようか――
“メモリアル・フェイズ・メタモルティ――黒ノ章”
――瞬間、三人の動きが冗談みたいにピタリと止まる。既に悠莉の力によって捕らわれたのだろう。
「愚かなる俗物に魂と肉体への煉獄を……ね」
そしてこれからが本番。悠莉の無邪気な口調が俄に、冷酷かつ何処か大人びた口調に変わる――
「魔戒六道界――“餓鬼道展開”」
…