テラーノベル
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レイナはベラに野営地の移動を申請し、
その許可を得ると、すぐに軍を動かし始めた。
教皇軍の陣から少し離れた場所へ、新たな野営地を設けるためである。
兵たちが天幕を畳み、荷車へ積み込んでいる頃――。
教皇軍の本陣に、一つの知らせが舞い込んだ。
「捕虜が逃げてきただと?」
マーチャーシュ卿は、報告に眉を上げた。
「はっ。モンゴリア軍に捕らえられていた兵士です。
昨夜、隙を見て脱走したとのこと」
ほどなくして、一人の男が天幕へ連れてこられた。
衣服は泥にまみれ、手首には縄で縛られていた痕が残っている。
男は地面に膝をつくと、息を切らしながら言った。
「明日……敵は橋を攻めます」
「橋を?」
「はい」
男は何度も頷いた。
「モンゴリア軍の兵たちが話しているのを聞きました。
明日の夜明けとともに橋へ攻撃を仕掛け、こちらの追撃を断つつもりです」
天幕の中がざわめいた。
橋。
それは教皇軍にとって、唯一の進撃路であると同時に重要防衛地点でもある。
もし奪われれば、追撃を断念せねばならない。
マーチャーシュはしばらく黙って考えていた。
やがて地図へ目を落とす。
「……なるほど」
敵が橋を狙う。
ならば、その攻撃を逆手に取ればいい。
マーチャーシュは顔を上げた。
「橋の背後に兵を伏せる」
諸将が彼を見る。
「敵が橋へ殺到したところを、側面から叩く」
そして、薄く笑った。
「自ら罠へ飛び込んでくるというのなら、歓迎してやろうではないか」
その日のうちに、教皇軍の一部が密かに橋の周囲へ移動した。
森の中。
川岸の茂み。
街道脇の窪地。
敵から見えぬ場所へ兵を潜ませていく。
すべては、翌朝のモンゴリア軍を迎え撃つためだった。
翌朝。
夜明けとともに、モンゴリア軍は橋へ攻撃を仕掛けてきた。
だが、その数は多くなかった。
橋を渡ろうとした騎兵たちへ、伏せていた教皇軍が一斉に襲いかかる。
「今だ!」
マーチャーシュの号令とともに、森や茂みから兵士たちが飛び出した。
アドラル皇国
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#日常
寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
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矢が降り注ぎ、槍兵が橋の前へ殺到する。
不意を突かれたモンゴリア兵は、ほとんど抵抗することなく退却を始めた。
「追うな!」
マーチャーシュは即座に命じた。
「橋を守れ!」
戦闘は、ほどなく終わった。
教皇軍の損害はわずか。
橋も無傷だった。
敵の攻撃を完全に退けたのである。
兵士たちから歓声が上がった。
「やったぞ!」
「モンゴリア軍を追い払った!」
マーチャーシュも満足そうに橋の向こうを眺めていた。
捕虜の情報は正しかった。
そして、その攻撃を見事に読み切った。
そう思った。
だからこそ――。
彼は、ここで致命的な判断を下した。
「もう来るまい」
橋の守備には、見張り程度の兵を残した。
主力は野営地へ戻す。
朝から戦闘に備えていた兵たちを休ませるためだった。
橋の周辺から、教皇軍の兵士たちが次々と姿を消していく。
やがて残ったのは、わずかな守備隊だけとなった。
それから――半刻ほど後。
地平線の向こうに、再び騎影が現れた。
「……敵?」
見張りの兵士が目を凝らす。
一騎。
十騎。
百騎。
いや。
違う。
「な……」
地平線そのものが動いていた。
無数の騎馬。
その前方には、巨大な攻城兵器が並んでいる。
先ほどとは比べものにならない。
モンゴリア軍の本隊だった。
「敵襲!」
鐘が鳴らされる。
「敵襲ううう!」
叫び声が橋の周囲に響き渡った、その瞬間――。
轟音。
大地が震えた。
攻城兵器から放たれた巨大な石弾が、弧を描いて飛んでくる。
一発。
二発。
三発。
石弾は橋の周囲へ次々と落下した。
土砂が爆ぜる。
兵士が吹き飛ぶ。
馬が悲鳴を上げる。
「伏せろ!」
さらに轟音。
今度は橋そのものへ石弾が叩きつけられた。
石造りの欄干が砕け散る。
その向こうで――。
「来るぞ!」
重装騎兵の大軍が動き始めた。
鎧。
槍。
軍馬。
陽光を浴びた無数の金属が、一斉に輝く。
そして次の瞬間。
地響きとともに、モンゴリア軍の重装騎兵が橋へ向かって突撃を開始した。
先ほどまでの小競り合いとは違う。
朝の攻撃は、囮だった。
モンゴリア軍の総攻撃が始まった。
「敵の攻撃は退けました」
マーチャーシュ卿の報告を聞きながら、ベラは静かに頷いていた。
橋は守られた。
敵兵は退却。
こちらの損害も軽微。
まずは一安心――。
そう思った、その時だった。
ドォン――!
遠くから、腹の底に響くような爆音が聞こえた。
ベラは顔を上げた。
「……何事だ」
間もなく、一人の兵士が天幕へ駆け込んでくる。
「申し上げます!」
息を切らしながら、兵士は叫んだ。
「モンゴリア軍が、再び橋へ殺到しております!」
「何?」
ベラの表情が変わった。
「敵の数は」
「先ほどとは比較になりません! 攻城兵器に加え、重装騎兵の大軍が!」
天幕の中が凍りついた。
ベラはゆっくりとマーチャーシュへ向き直った。
「橋の守備兵はいかほど残した」
マーチャーシュの顔から、みるみる血の気が引いていく。
「……二十名ばかり」
沈黙。
次の瞬間、ベラは立ち上がった。
「馬を!」
「陛下!」
「近習だけでいい。続け!」
天幕を飛び出す。
再び爆音が響いた。
橋の方角から、黒い煙が上がっている。
間に合え。
ただ、それだけを願った。
ベラは馬へ飛び乗ると、手綱を強く引いた。
(神よ――)
馬が駆け出す。
(どうか、間に合ってくれ)
ベラは近習たちを従え、橋へ向かって疾走していった。
コメント
1件
いやぁ…第22話、めっちゃ熱かったね!!🔥 捕虜の情報を信じたマーチャーシュ卿が罠を仕掛けるところまでは「よし、作戦成功!」って思ったのに、まさかあれがモンゴリア軍の囮だったとは…😭💦 「もう来るまい」って油断した瞬間のあの攻城兵器と重装騎兵の総攻撃、読んでて鳥肌立ったよ…!! ベラが「馬を!」って飛び出してくシーン、めっちゃ主人公感あって痺れたし、神様に祈る姿が切なくて胸がギュッてなった🥺💕 眠狂四郎さんの戦術描写、毎回ほんと上手すぎて泣ける…! 次どうなるか気になって夜しか寝れないんだけど!?!?😭🔥