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廊下に足を踏み入れた瞬間、空気が少し重くなった。 靴底が絨毯を押し込み、沈むような感触が伝わる。
歩くたび、低いきしみが響いた。
「ねえ、どうして土を探しているの?」
白い髪の少年が振り返り、首を傾げる。
私は肩にずしりと食い込む袋を直しながら答えた。
「……耕した畑が枯れた。次の土地も、雨が降らず割れていった。
どれだけ鍬を振るっても、土が死んでいたら何も実らない」
言葉を重ねるほどに、背中まで重苦しく沈んでいくようだ。
それでも歩みを止められない。
「種は残っているの?」
黒い髪の少女が問いかける。
「少しだけな」
袋の中で硬い音がした。
「守り続けてきた。芽吹かせられる土があるなら、また蒔ける」
二人は顔を見合わせ、微笑んだ。
「重たいけれど、ちゃんと歩いてる」
「ならきっと、根を張るわ」
その声に応じるように、廊下の壁にひびが走り、そこから黒土の匂いが広がった。
床はさらに沈み込み、まるで地下深くの地層を踏みしめているかのようだった。
「もうすぐだよ」
少年の声は、どこか確信めいて響いた。