第3話:碧塔の礎
☀️ シーン1:中央塔、始動
翌朝、碧砂の地に新しい風が吹いた。
前日まで瓦礫だった場所に、薄青く光る構造体が立ち上がりはじめている。
「……さあて、いよいよやな。ワイらの塔、今日から形になるで」
ケンチクがゴーグルを額にかけ直しながら、ホログラムに浮かぶ設計図を見上げた。
額のゴーグル、碧素制御ツールの詰まったツールベルト。陽に焼けた肌に、作業ジャケットの袖をまくった腕が頼もしげに動く。
ケンチクの手元から走る青い光の軌跡が、空中のフラクタル制御画面へと走る。
《CITY FRACTAL BUILDER》が起動し、立体化された構造コードがぐん、と上昇した。
「これが……街の“心臓”か」
アセイが呟いた。
黒髪を後ろで結い、銀縁のメガネを押し上げる。白と青の設計スーツの胸元で、ライフカードがわずかに光っていた。
彼の指がタブレット上を滑ると、中央塔のエネルギー供給ラインが構築されていく。
「双軸回路によって、塔全体の安定性が2.3倍になる。今回は試験的に“階層型エネルギー拡散”も入れてみた」
「それ、前から気になっとってん!見せて見せて!」
ケンチクがくいっとホログラムを寄せると、塔の中心部――いくつもの薄膜パネルが放射状に配置された多層コア構造が見えた。
その姿はまるで――青く光る水晶の塔。
⚙️ シーン2:都市の鼓動、目覚める
「おふたりとも。中央塔コア安定率、92%。まもなく構造が固定されます。素晴らしいスピードです」
すずかAIの声が端末から流れる。
相変わらず落ち着いた女性の声。それでいて、設計者の心をくすぐるような優しさを秘めている。
「塔の軸、安定確認……っと。すずか、これ、ワイの案とアセイの案、どっちの要素が多い?」
「現在構築中の塔は、ケンチク案43%、アセイ案57%のハイブリッド設計です」
「うわ~また僅差や……!」
「でも、いい塔になるよ。これは“共作”だから」
アセイが少しだけ笑って、タブレットを閉じた。
🚜 シーン3:支える者たち
そのころ、塔の基部では三人の処理チームが動いていた。
「おーし、塔の地盤、完全に固定っぺよ!」
ゴウが地面に突き刺した重機アームを引き抜き、機械化された右腕で汗を拭う。筋骨隆々のその体に、碧族のラインが浮かんでいた。
「碧素流の流れも正常。残留反応、無しっぺ」
ギョウはスキャナーをタブレットに繋ぎ、データを転送していた。細身で、目元の奥に冷静さが宿る。
「……外周、異常なし。塔を囲む支柱も安定」
キョウが静かに言い、首元の感知装置に指を添えた。
キャップとマスクに隠された顔は読めないが、声には芯がある。
「お前らがいなかったら、この塔は立たへんかったやろなぁ……感謝しとるで、ほんま」
ケンチクが照れたように笑うと、ゴウがどっしりと構えて言う。
「当然だっぺ!オレたちゃ、下から支えるタイプなんだっぺ!」
✨ シーン4:碧塔、そびえる
空が少しずつ色を変えていく中、塔は完成に近づいていた。
その姿は、かつてこの地にあった“人間の都市”とは全く異なる――まるで、碧の記憶そのものが形になったような美しさ。
すずかAIが静かに告げた。
「中央塔、構造確定。命名をどうぞ」
「ほな……《碧律の塔(へきりつのとう)》、でどうや?」
「……いい名だね。碧族がここに生きてる、そんな感じがする」
五人の碧族と、ひとつのAI。
それぞれの役割が重なり、かつて滅んだ都市に、ひとつの命が宿った。
風が吹いた。
それはもう、死の残り香ではなかった。
再生の風――碧の塔を揺らす、未来への風だった。
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