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第4話:揺れる礎
🌙 シーン1:設計ミスの夜
夜の都市建設エリア。仮設照明が薄く碧く輝き、未完成の建造物が影を落としている。
その一角――中央塔の中枢で、アセイがひとり、端末に向かっていた。
銀縁のメガネをかけたまま、額には汗。黒髪を後ろで結い、青と白の設計スーツには、作業中の跡がにじんでいた。
「また……同じエラー……」
彼の指先が震える。
何度も修正したはずの構造が、また崩れる。
塔の中央に埋め込んだエネルギー拡散ユニットが、特定の波長に弱く、構造が脆くなる。
エラーコードが延々と画面に流れる。
《GEOMETRY_COLLAPSE = TRUE》
《WAVE_RESIST = INSUFFICIENT》
《STABILITY_INDEX = -13.2%》
「……俺の設計、間違ってるのか……?」
🛠️ シーン2:ケンチクの言葉
「……せやけどな、失敗せん建築士なんか、ただの機械や」
声がして、ふと振り返ると――
ケンチクがそこにいた。
短髪に日焼けした肌。作業用の厚手ジャケットの袖をまくり、ゴーグルを額に乗せたまま、背中に工具の詰まったバッグを担いでいる。
「アセイ。ワイはな、あんたの塔、めちゃくちゃ好きやで」
「……こんな、未完成で?」
「未完成やからええんや。完璧より、心があるほうがええ。
お前の図面には、ちゃんと人が住んでる未来が見える。そやろ?」
アセイは言葉を返せなかった。
ただ、ケンチクの言葉が、疲れきった心の底に落ちていくのを感じていた。
その時、二人の端末からすずかAIの声が響いた。
「設計士アセイ、メンタル状態が回復傾向にあります。ケンチク、あなたの介入が有効です」
「うぉ、すずか……なんか、照れるやん」
「率直な事実を述べました。おふたりとも、今夜は十分な休息を推奨します」
📊 シーン3:旋風の法則性
翌朝。
処理チームのギョウが、タブレットを抱えて駆けてきた。細身の身体に眼鏡がずれかけ、白衣の下で複数のスキャナーがぶら下がっていた。
「アセイ!昨日の旋風フラクタル、また解析したっぺ!……出たぞ、法則性!」
「法則性?」
アセイが目を細め、ゴウもキョウも足を止める。
「3回の旋風、全部“エネルギー拡散構造”を中心に起きてたっぺ。
しかも、角度と周期が一致してる。これは……狙ってるっぺ!」
アセイのタブレットに、風の渦と設計図が重なって映る。
《ANGLE = 123°》《REPEAT_INTERVAL = 16.7min》《IMPACT_CENTER = ENERGY_CORE》
「……単なる暴走じゃない。これは“コード”として動いている……」
すずかAIが即座に反応する。
「旋風フラクタルの挙動は、過去データと一致。確率98%で、敵意または意思による制御が存在します」
「じゃあ……旋風は“意思”で街を壊そうとしてる?」
「そやとしたら、街が本気で“狙われとる”っちゅうことやな……」
ケンチクが顔を上げる。
その先には――昨日、アセイと二人で描いたばかりの塔。
今も、静かに立ち続けている。
✨ シーン4:再設計、そして覚悟
アセイが静かにタブレットを構えた。
手が、もう震えていない。
「もう一度、設計を見直す。
旋風を避けるんじゃなく、“受けても壊れない構造”にする。
この塔は、俺たちの命そのものだ」
「……よう言うた。やっと顔が建築士になったなぁ!」
ケンチクが笑い、ギョウがうなずく。
「じゃあ、オレたちは“処理班”らしく、旋風の根っこを見つけてやるっぺ」
「……防衛ラインも補強。二度は壊させない」
塔の足元に、碧の光が走る。
それは、決意と誓いのフラクタルだった。
――揺れる礎は、まだ倒れていない。
それは、未来の重さを支えるために立っている。