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駿がスーパーを出た頃は既にあたりは暗くなっていた。
「どうなってんだよ・・金森の家で何が起きてるんだ?」
駿は状況を飲み込めず、ただ呆然と歩くだけだった。
梓に詳しい話を聞こうと、自宅へ行きインターフォンを押すが誰も出てこない。それどころか誰も中にいないようだった。
「金森・・帰ってないのかな?電話しても繋がらないし・・はぁ〜・・とりあえず一旦帰ってまた連絡してみるか」
駿は諦めて自宅へ向かって歩みを進める。
そして自宅アパートを前にした時、駿の足が止まる。
「アレは?」駿の視線の先には、自宅アパート前にあるベンチに腰を下ろす、1人の制服姿の女の子が居た。
「もしかして金森か?」
ベンチの座っていたのは梓だった。
「先生・・・」梓は駿の顔を見ると立ち上がり、駿に近づく。
「もう!遅いよ!何処行ってたの?」梓は頬を膨らませる。
「いや・・というか、今日も家に帰ってないのか?」
「あ、いや・・それは・・・」
駿の問いかけに梓は目を逸らし、小声でブツブツと何やら呟く。
「なぁ・・金森?ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「聞きたい事?なに?」
「金森さ・・最後にお母さんに会ったのいつだ?」
駿の問いかけに梓の顔から笑顔が消える。
「な、なんの事?お母さんとなら・・今朝」
「嘘をつくな!!!」駿は梓の言葉を遮って声を荒げる。
「俺な・・実は昨日、金森が風呂に入ってる間に、金森のお母さんに電話したんだよ」
「え!?」
「金森が何か悩んでるのかもと思って、やっぱりお母さんに話を聞いてみるのが一番いいと思って・・・
まぁ、金森との約束を破ったことは謝る。
けど、その番号は既に使われてなくて、連絡がつかなかった」
駿の話を梓はうつむいたまま、黙って聞いている。
「だからさ俺、さっきお母さんが働いてるスーパーに行ってみたんだ」
「ス、スーパーに!?」
「それで働いてる人に話を聞いてみて驚いたよ。もう2週間も無断欠勤してるって・・」
駿がスーパーの従業員から聞いた話。それは梓の母、こずえが2週間ものあいだ、連絡もなしに休み続けていると言う事だった。
「それに最後にこうも言われたよ。毎朝娘さんが母親を訪ねてやって来るって」
梓は一言も言葉を発さない。
「今日の遅刻はこれが原因だったんだな?金森・・お前はお母さんを探してるんだよな?行方が」
「もう!放っておいてよ!」
梓は涙を流し、声を荒げながらその場から立ち去ろうとする。
「待て!」そんな金森の腕を駿がつかむ。
「嫌!離してよ!先生には関係ないでしょ!?これは私とお母さんの問題なの!!」
「そんな水臭い事言うなよ・・・」
駿の目には涙がうっすらと浮かぶ。
「覚えてないか?俺が初めて2年1組の担任になった日・・俺がクラスのみんなに、なんて言ったか」
「先生の・・・言葉?」
「俺・・言ったよな?みんなが楽しく学園生活を送れるように全力でサポートするつもりでだ
そのためだったら、何だってするから、何かあったら気軽に相談してくれって、そう言ったよな?」
駿の言葉に呼応するかのように、梓の目から大量の涙が溢れ出る。
「先生・・た、助けて・・・ぐすっ・・」
「もちろんだよ!」
駿の一言で梓は大声で泣き叫びながら駿に抱きつく。
「わぁぁぁぁぁん。先生・・先生・・」
「寂しかったよな?辛かったよな?」
駿は涙を流しながら梓の頭を優しく撫でる。
「寂しかった!寂しすぎて頭がおかしくなるかと思った!」
17歳の高校と言えど、まだまだ親に甘えたい年頃だ。
そんな中、実の母親が2週間も行方不明だったら、その寂しさは計り知れないだろう。
「と、とりあえずさ、部屋に入れよ。」
「い、いいの?」
「当たり前だろ?とりあえず落ち着こう!な?」
駿の言葉に梓は黙ってうなずく。
「どうかな?少しは落ち着いたか?」
お茶を飲んで一息ついた梓に駿が優しく問いかける。
「う、うん・・ありがとう先生」
梓はぎこちない笑顔を作って見せる。
「辛いかもしれないけど、話してくれるか?一体何があったんだ?」
駿の問いかけに梓は「私もいまいち分かってなくて・・・」と曖昧に応える。
「どう言う意味だ?」
梓の話はこうだ。
2週間前の早朝、寝ていた梓が目を覚ましてリビングに行くと、そこには母の姿がなかった。
いつもだったら居るはずのにと不思議に思った梓であったが、仕事には残業というものがある。
おそらくまだ仕事をしているのだろうと、あまり気に求めず、祝日だと言う事もあり、梓はリビングでテレビを見ながら過ごしていた。
しかし、いくら待とうとも母は帰ってこなかった。
心配になり、スマホに連絡してみるが繋がらなかった。
もしかしたら事故に巻き込まれたのかもしれないと、職場へ向かってみるが、従業員から聞かされたのは、仕事に行くと言って出かけた母は、実は連絡無しに欠勤していたという事実だけだった。
警察に相談してみたりもしたが、事件性が立証されなければ、警察もすぐには動けず、一般家出人として登録するとしか言われなかった。
しかしそれだけでは不安で、梓も自分の足で行方を探ろうと、母が立ち寄りそうな場所をしらみつぶしに当たってみたが、見つからなかった。
何度かスマホへの連絡も試みたが、一向に繋がる気配は見られず、しまいには電話番号か使われていないというアナウンスが流れる始末。
それから梓は2週間もの間、孤独に耐えながら、行方知らずの母を待ち続けていた。