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梓の話を聞いた駿は少し考えて
「居なくなる前兆とかなかったのか?」と問う。
「ぜん・・ちょう?」梓は首を傾げる。
「お母さんが居なくなる前に変な事言ってたとか、居なくなった後に変わった事があったとか・・・」
駿の問いかけに梓は考え込み「あ!そういえば」と何かを思い出したように声を出す。
「何か思い当たることがあるのか?」
「関係あるかは分からないんだけどね、お母さんって消費者金融から借金してたんだ」
「借金?」
「うん、先生はわたしのお父さんがガンで死んじゃったのは知ってるよね?」
「ああ、前に金森から聞かされたよ」
「それが中1の時なんだけど、私が高校入学した頃に、お母さん・・付き合ってる人が居たの。私は会ったことないんだけど」
「母の彼氏なのに会った事ないのか?」
「うん・・私が会ってみたいって言ったこともあったんだけど、ダメだって言われたんだよね」
「そっか・・・」
「でね、お母さんって、その彼氏さんに結構な額貢いでたみたいなんだよね」
「貢いでって・・もしかして借金ってそれが理由?」
「私もお母さんから借金の理由を直接聞いたわけじゃ無いから、詳しくは分からないけど、多分そうだと思う」
「借金してまで持って・・まぁ、そこは人それぞれだからな・・」
「でも、結局別れちゃったみたいで、それからしばらくして借金取りが家に頻繁に来るようになったの」
「まじで?居るのは分かってんだぞ!的な?」
「そんな怖い感じじゃなかったけど、まぁ、似たような感じかな。 でも、お母さんが居なくなった日以来、全く来なくなったの」
「来なくなった?」
「うん、それまでは週に何回も来てたのに、パッタリ来なくなったんだ。これくらいかな?お母さんが居なくなって変わった事は」
梓の話を聞いた駿はしばらく考え込む。
「まぁ、考えられる理由はふたつかな?」
「ふたつ?」梓は首を傾げる。
「まずはお母さんが借金を全額返済したか!もしくは誰かが借金を肩代わりしてくれたか!このふたつだと思う」
駿の話を聞いた梓は「ひとつ目は多分ないと思う」と、母が借金を全額返済した説を否定する。
「なんでそう思うんだ?」
「お母さんは、借金を返せるだけのお金があったら、それを別の事に使っちゃう人だから」
「なら、誰かが肩代わりしてくれたって事になるよな・・でも誰が・・・」
駿は更に考え込む。
「金森には思い当たる人はいないんだよな?」
「うん・・知り合いには居ないかな・・ごめん役に立たなくて」
謝る梓に駿は「何謝ってんだよ。俺こそ金森の孤独に気づいてやれなくてごめんな?」
駿は梓の頭を優しくなでる。
「でもさ・・・」駿はおもむろに口を開く。
「どうしたの?」梓は首を傾げる。
「いや、さ、金森がお母さんの事で寂しい思いをしてるのは分かったんだけどさ」
梓は黙って駿の話を聞く。
「ほら、昨日、寂しさを紛らわそうとしてって言ってたけど、あれってやっぱり
俺にアレ見せろだの、家に入って手料理食べたいだの、色々条件を出してたのは、寂しかったからなのか?」
「ま、まぁ、う、うん・・・」梓はうなずくが、駿はあまり納得がいっていない様子だった。
「でもさ、寂しさを紛らわしたいんだったら、まぁ、本来だったらダメだけど、 一緒にカラオケ行きたい!とか、映画見に行きたい!とか、色々あったろ?、なんであんな条件を」
「それじゃダメだって思ったの」梓は駿の言葉を遮るように食い気味に口を開く。
「ダメ?なんで?」
「私が風俗帰りの先生を見たあの日・・私もう限界だった・・ お母さんの行方が分からなくて、寂しくて、辛くて、耐えられなかった・・・
だから、少しでも人がいる繁華街を歩いてたの・・そうすれば私はひとりじゃない・・ 孤独じゃないんだって、そう思えると思ったから」
駿は梓の話を黙って真剣な眼差しで聞く。
「その時・・先生を見かけて、これだ!って思ったの・・」
「どういう意味だ?」
「風俗の事を黙ってあげる!って口実で、先生の側に居れるかも、孤独から解放されるかも、って、そう・・思ったの・・・」
「それは理解できるけど、ならなんであんな条件を?」
「過激な事を先生にやらせれば、さらにその事がバレたらマズイって思わせる事ができて
先生はずっと側に居てくれる・・そう思ったの・・・」
「なるほど・・そういう事だったのか・・」
駿は梓の話を聞いて納得したように手を叩く。
「ごめんね・・私がひとりぼっちが嫌だってワガママの為に、先生にあんな事・・本当にごめんなさい」
梓は駿に深々と頭を下げる。
「だったらあれは?ホラ!家に金森を上げる条件で俺に・・その・・一人でしろって言ったろ?もしその条件を俺が呑んだらどうするつもりだったんだ?」
「先生なら絶対にやらない!断る!って思ったから・・・」
梓は涙を拭ながら応える。
「そういう事か・・なんか金森に全部見透かされてたって感じだな・・・」駿は恥ずかしそうに頭をぽりぽりと掻く。
「でも・・だったら最初っから素直に助けて言えばよかったじゃないか。回りくどいんだよ金森は」
駿は微笑みながら梓の頭を優しく撫でる。
「先生・・ぐすっ・・」
そして駿は立ち上がり「よし!俺も協力させてもらうよ」と拳を握りながら言う。
「え?でも・・これ以上先生に迷惑は」
「迷惑なんて思わないって!それに金森よりは、車とかあって動きやすいし、役に立つと思うぞ?」
「本当に・・協力してくれるの?」
「当たり前だろ?」
駿の言葉に梓は涙を流し、駿に抱きつく。
「先生・・ありがとう・・」
「ひとりでよく頑張ったな。」駿は梓を抱きしめて後頭部をポンポンと優しく撫でる。