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「ねぇ、ディスピア」
静けさの中で、僕は声をかけた。
霧の中にふわりと彼の姿が揺れる。
「キミは、信じることに意味はないと思ってるんでしょ?
でも、太古の昔から神が存在すると信じられてきたように……
信じることで何かが報われる物語があるように……
──人を信じる優しさにも、意味はあるんじゃない?」
一瞬、霧が静止する。
彼の瞳がゆっくりと僕を見た。
「それは……キミが何も知らないから言えることだ」
声に、わずかな怒りが混じる。いや、悲しみに近いものだった。
「純粋さはときに、愚かさとなる。
──見せてあげるよ。僕の物語を」
霧がぐるりと渦を巻く。
世界が、時間が、巻き戻っていくようだった。
視界が白く染まり──気づけば、そこはかつての“世界”。
目の前には姿が変わったディスピアであろうスケルトンが立っている。しかし、服装はだいぶシンプルでどこかでみたことがあるような気がする、紫をメインとした服だ。
彼は今までの演者のような話し方ではなく、静かに語るように話し始める。
──美しい草原。明るい空。人々の笑顔。
その中心には人々に囲まれながら花束を大事そうに抱える、きれいな黄金の瞳を持つスケルトンが立っていた。
「彼が、かつての大罪を犯した罪人。……Dreamという名の、愚かな“光”だった存在さ」
Dreamは人々を信じ、優しさで世界を照らしていた。
困っている人には手を差し伸べ、
争いが起これば話し合いで解決しようとした。
誰かが憎しみに染まりそうになれば、その心を抱きしめた。
──“そのはずだった”。
だが、現実は違った。いや、Dreamは現実をみようとしなかったんだ。
「彼の“優しさ”は、ただの理想だった。
人は変わらない。思い通りにならない。
どれだけ愛しても、信じても……
ある日、人々はこう言ったんだ」
『お前は、ただ綺麗ごとを並べてるだけだ』
『結局、何も守れていないじゃないか』
そして──
『お前がいるから、ナイトメアが生まれた』
彼の兄である僕、ナイトメアは、かつて君たちと同じように“守る者”だった。
だが、世界の残酷さを前にして絶望し、呑み込まれていった。
でも僕はDreamさえ笑顔でいるならどんなことでも耐えることが出来た。
しかし、次第に人々の声はDreamを追い詰めるようになった。
彼はそれでも信じようとした。
それでも、優しくあろうとした。
それでも、光であろうとした。
だが──人々は、彼を“守護者”ではなく“偶像”として利用し、裏切った。
「……そのとき、僕は壊れた」
場面が変わる。
そこには、炎に包まれた町。
枯れてしまった大樹。
そして、膝をつき、目を見開いたDreamの姿。
瞳にはもう“光”はなかった。
僕は彼を石にかえ、“闇の帝王”となった。
「信じることが、優しさが、何もかもを奪った。
だから僕は選んだ。信じることをやめることを。」
それがこの世界がResetされる前の出来事。
「Resetされてから僕は前の世界でやり残したことをやり直そうと思った。このまま現実をみないままだと最悪の結果をもたらすことになる。キミの大事な兄弟が一生後悔するであろう史上最悪の闇の帝王になって人々を苦しめる存在になってしまうんだ。」
目の前にはドロドロの粘液で覆われた、触手の生えた恐ろしい怪物が嗤っている
霧が戻ってくる。
今の世界へと帰ってくる。
目の前のディスピアは、静かにこちらを見ていた。
その目に浮かぶのは、怒りでも憎しみでもない。……深い、深い哀しみ。
「キミがまだ、信じたいというのなら、それでもいい。
でも覚えていて。信じるという優しさには──必ず“代償”がある」
僕は何も言えなかった。
その過去を前に、言葉を失っていた。
ピシ
僕の心にひびが入った気がした。
僕が本当に信じればいいものはなんなのだろう?
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