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やはり光江さんは 綾子さんに 自分と同じ匂いを感じ、心配で声をかけていたのですね😢 同じ痛みを知っているからこそ、しつこくなく邪魔にならない 丁度良い距離感で接してくれていたのでしょう.... 昼間は光江さん、夜はGodさんとの✉️、 綾子さんが 二人との会話によって少しずつ癒され、笑顔を取り戻せますように👼✨
こうやって休憩の僅かな時間にちょこっとほんの数分光江さんと「会話をする」それが綾子さんにとって負担にならない心地よい時間になってっていってるように思います。 この間は道の駅について、それについて感想を言う。今日は喜怒哀楽について、綾子さんは光江さんにどんな気持ちを伝えるのかな。 God仁さん…早う返信ちょうだい〜‼️綾子さん待ってる😊あれ?お互い待ってるね〜🤍💌🤍
光江さんも綾子さんと同じ痛み持ってたんですね。理人君もお母さんにもう一度笑顔取り戻して欲しいと思ってると思うから綾子さん一歩前進しよう。
翌日、工場の屋上で弁当を食べていた綾子の元へいつものように光江がやって来た。
光江はベンチに「よっこらしょ」と言って腰かけると煙草に火をつける。
そこで綾子は光江に袋を差し出した。袋の中には大学芋の入った使い捨て容器と保冷剤が入っている。
「ん?」
光江は少し驚いている。
「教えていただいた道の駅に昨日行ってみました。そこで買ったさつまいもで作ったので良かったら」
光江は目をまん丸に見開いていたが袋を受け取り中を覗き込むと途端に笑顔になる。
「あらま、美味しそうだね、あたし大学芋大好きなんだよ」
「ご家族は何人ですか? 足りるかな?」
「うちは二人」
「良かった。じゃあ足りますね」
「今日の夕飯でいただくよ、ありがとう。それにしても美味しそうだこと」
光江はニコニコと嬉しそうだ。光江のくったくのない笑顔は初めて見たような気がした。
「そのさつまいもは『寺崎昭』さんという方が作ったそうです。もしかして?」
「ああ、それうちの兄だわ、一緒に住んでるの」
「…………」
「一緒に住んでるのは旦那だと思った?」
光江は可笑しそうにハハッと笑う。
「あたしゃバツイチなんだよ。離婚して実家に出戻ってんの。うちの兄はずっと独身だから親がいなくなってからは兄弟二人暮らし」
綾子はてっきり光江は夫がいると思っていたので驚いた。そしてつい自分も同じバツイチですと言いそうになる。しかしその言葉はグッと飲み込んだ。
「内野さんもさぁ、同じだろう?」
「え?」
「だからあたしと同じだろうって言ってんの。バツイチ!」
「______何でわかったんですか?」
「フフッ、同じ匂いがするもの」
「…………」
「まあでも内野さんはまだ若いし綺麗だからこれからまたチャンスはあるよ」
「…………」
「子供は?」
「え?」
「子供はいるの? 見た感じいなさそうだけど」
「______いまし…た」
「『た』って過去形って事は旦那に連れて行かれたのかい?」
「いえ」
「じゃあなんで?」
「______交通事故で亡くなりました」
そこで煙草を持つ光江の手が止まる。そしてゆっくりと煙を吐き出してから言った。
「そうかい、そりゃ大変だったね」
「______はい」
「あたしもさ、死なせてんだよ」
「え?」
「息子をね、死なせちゃったんだ」
「?」
「高校生の時にさぁ、自殺させちまったんだよ」
「!」
綾子はびっくりして何も言えなかった。まさか光江にそんな過去があったとは夢にも思わない。
そしてなんて言葉をかければいいのかと戸惑う。
「ハハッ、気の利いた事を言おうとしなくていいよ、もうだいぶ昔の事だからさ」
「え、あ……はい」
「いじめが原因なんだ。それに気づいてやれなかった。だからあたしは母親失格さ」
「…………」
「いくら後悔したって帰って来ないんだよねー」
綾子はその言葉の重みを充分にわかっていた。『いくら後悔したって帰って来ない』綾子も何度もそう思った。
出来れば過去に戻って全てをやり直したい……でもそれは不可能なのだ。
そこで綾子がポツリと聞いた。
「辛さっていうのは時間が経てば消えますか?」
「いや消えないねぇ。多分死ぬまで消えないんじゃない? ただ生き方次第で多少薄まるのかなぁ?」
「生き方?」
「そう。例えばあたしの場合だったらいじめられている子を見つけたら助けてやったりとかさー、この工場でもいるだろう? 結構いじめられている奴。そういうのを見つけたら声かけるようにはしているよ。そうやって自分の罪を少しでも軽くしようかなってね。まあズルいっちゃーズルいんだけどね、結局それって自分の為みたいなもんだからねぇ」
光江は言い終えると煙草を口に持って行き吸い込む。
そこで綾子は納得した。光江がなぜ同僚達の面倒見がいいのかを。
光江は当時我が子に出来なかった事を今周りの人にしていたのだ。そして少しでも過ちを償おうとしていたのだ。
「凄いです。私はまだそこまで…それに私の場合何をしていいのか……」
そこで光江はフーッと煙を吐き出すと言った。
「あたしがもしあんたの子供だったら心配であの世にいけないだろうねぇ。だから今内野さんがやるべき事はまずは喜怒哀楽を取り戻す事だろうなー」
「喜怒哀楽?」
「そう、喜怒哀楽。楽しい時には笑う、しんどい時はしんどいと言う、怒りが湧いたら思い切り怒ったらいいし泣きたい時は泣く。そういう人間としての基本的な感情をまずは取り戻した方がいいと思うよー。そうすりゃあなんだって出来るんだから」
光江はもう一度煙をフーッと吐き出すと煙草を消してベンチから立ち上がった。そして綾子から貰った袋を高く掲げて言った。
「お芋ありがとさん」
ゆっくり立ち去る光江の後ろ姿を見ながら綾子は今交わした会話をもう一度思い返す。
(理人は私の事を心配して彷徨っているのだろうか?)
ふとそんな思いが頭を過った。
綾子は一度深呼吸をしてから空を見上げる。今日も快晴だ。
その時スマホの通知音が鳴った。見ると【月夜のおしゃべり】から通知メールが届いている。
(『God』さんからメールが来たのかな? それとも違う人かな?)
気になった綾子は【月夜のおしゃべり】にログインしてメッセージを見た。
新しく届いたメッセージは『God』からではなく新規の人からだった。その時綾子は少しがっかりしている自分に気付く。
(『God』さんは本に詳しそうな人だったからまた話しが出来たらいいのに……)
そう思いながら綾子は届いたばかりのメールに目を通した。