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翌週、花梨がパソコンのキーボードを叩いていると、隣の席の美桜が言った。
「浜田様の別荘の件、その後どう?」
「いくつか問い合わせは来たんですが、あからさまに値引き交渉してくる人ばかりで、ご紹介できるようないい買い手の方がなかなかいなくて……」
「やっぱりねー。ウィンタースポーツをする人には理想の場所だけど、あれだけ敷地が広くて立派な建物だから値段もそれなりにするしねぇ」
「はい。でも、浜田様は急がなくてもいいとおっしゃってるので、もう少し様子見ですかね?」
「そうね。焦って探してもいいことないしね」
二人は笑みを交わすと、それぞれの仕事に戻った。
そして、終業時刻を迎える頃、花梨のパソコンに一通の問い合わせメールが飛び込んできた。
メールは、浜田の別荘に関する問い合わせだった。
【湘南でフリースクールを経営している菊田優子(きくたゆうこ)と申します。白馬の別荘についてお聞きしたいことがあり、連絡させていただきました】
その一文を読み、花梨は急に胸がざわついてきた。
(フリースクールの経営者ってことは、合宿か何かに使うのかしら?)
はやる気持ちを抑えながら、花梨はメールに記された質問ひとつひとつに丁寧に答え、返信した。
「お先に失礼しまーす」
「お疲れ様でしたー」
「良い休日を!」
明日、明後日は休日とあって、社員たちは笑顔で会社を後にする。
しかし、花梨はまだパソコン画面を見つめていた。
そこへ、萌香が近づいてきて言った。
「水島さん、残業ですか?」
その声に花梨が顔を上げると、笑顔を浮かべた萌香が立っていたので驚く。
(いったいどういうこと? 彼女が笑顔で声をかけてくるなんて……)
花梨は無意識に身構える。
しかし、今日の萌香はいつもと違っていた。
どこがどうとはうまく言えないが、なんとなくいつもより柔らかい印象だ。
「あ、はい、少し調べたいことがあって……」
「いつも熱心ですね。あ、これ、頼まれていた書類です」
それは、花梨が派遣社員の一人に頼んだ書類だった。
「ありがとうございます」
「じゃあ、お先に失礼しますね」
「お疲れ様」
萌香はペコリと会釈をすると、うきうきした様子でフロアを後にした。
(なんだかずい分楽しそうだけど、何かあったのかな?)
そんな風に思いつつ、花梨は急にハッとした。
(彼女が作った書類だから、ちゃんとチェックしないと……)
花梨はすぐさま、書類を確認し始めた。
しかし、いつもとは違い、書類に間違いは一つも見当たらなかった。
「どうして?」
その時、誰もいないはずの部屋に声が響いた。その声は、柊だった。
「何がどうした?」
「課長! あ、いえ……書類が……」
「書類?」
「円城寺さんが持ってきた書類に間違いがなかったので、驚いちゃって……」
その言葉に、柊が声を出して笑い始める。
「ははは! 珍しいな……」
「はい。てっきりまたミスがあるかと思ったんですが」
「まあ、ミスがないのはいいことじゃないか」
「そうなんですけど……今日の彼女はいつもと違うような気がして……」
「いつもと違う? どんな風に?」
「なんか、優しい雰囲気って感じ? それに、うきうきして楽しそうだったし」
「はーん……なるほどね。そういうことか」
柊が顎に手を当てて頷いたので、気になった花梨はすぐに尋ねた。
「何か心当たりが?」
「うん。彼女はきっと恋をしてるんだろう」
「恋?」
「実はこの前見ちゃったんだ。円城寺さんと中谷君がいい雰囲気なのを」
「え? 中谷さんと?」
「うん。今も二人が一緒に帰るところをすれ違ったよ」
「えーっ! いつの間にそんなことに?」
「なかなか似合いの二人だったぞ」
「意外! だって、円城寺さんはてっきり……」
花梨はそう言いかけて、急に口ごもった。
「ん?」
「あ、いえ、なんでもありません」
「まあそういうことだから、今後君への嫌がらせは減るかもしれないね」
「だといいんですけど……。もしそうなら、中谷さんには感謝しないと」
花梨はそう言って穏やかに笑った。
「今日も残業か?」
「あ、いえ。一つ調べたいことがあって」
「調べる? 何を?」
「実は、新たに浜田様の別荘への問い合わせが来まして……」
花梨は、湘南でフリースクールを営む人物からの問い合わせについて柊に伝えた。
そして、そのフリースクールのホームページを検索してみる。
そのホームページを見た柊が口を開いた。
「フリースクールの合宿所にでもするんだろうか?」
「たぶんそうかなと」
「スクールの所在地は湘南の海の近くか……。山にも拠点を設けたいのかもしれないな」
「そう思います。これはちょっと期待できそうですよね?」
「うん。いいご縁があるといいな」
そう言って微笑む柊を見た花梨は、その魅力に一気に引き込まれている自分に気づいた。
その時、柊が言った。
「一緒に帰ろうか」
「え?」
「もうそれで仕事は終わったんだろう?」
「あ、はい……」
「どっかで飯食って帰ろう」
柊はそう言うと、デスクへ戻り帰り支度を始めた。
花梨は高鳴る胸の鼓動を抑えながら、机の上にある私物をバッグにしまい始めた。
コメント
65件
花梨さん菊田優子さんなら私も保証致しますから安心してお話し進めても大丈夫🙆♀️
中谷くんに👏これはスゴイの一言👏 これで仕事しやすくなるだろうし、モエモエこのままゴールに真っしぐらじゃないかな?よきよき☺️ そしてわぁ〜優子さんだったとは〜!!! もしも、もしもはなく確定だよね。そしたらこの別荘には一体誰が来る?いっぱいいるよ〜!歴代のイケメン勢揃いでしょ🤤 そしてまたそこから新しい繋がりが始まって…((•̤ᗜ•̤ॢ)✲*。ワァ〜♥︎ 脇役のイケメンも来るわよね〜🎶興奮しちゃう❤︎"⤴︎⤴︎
嬉しいです。 皆さんおそろいですね!💞 マリコワールド 始まりから😃✌