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17
#死に戻り
「クロード!」
クロードの姿を認めると同時、シリルがレジーナの身をグイと引き寄せた。
「へぇ? すごいね、英雄さん。魔力もなしに、どうやって僕の結界破ったの?」
クロードの身体から、突き破ったガラスの破片が落ちる。
彼がその右手に握るもの。
掌からはみ出して見えるのは真っ赤な魔石だった。
「ふーん、なるほどねぇ。魔石の魔力で結界を破ったんだ。それでよく、拳が壊れなかったね」
感心したように呟くシリル。
レジーナは必至に身を捩る。ずっと、知りたくもない彼のおぞましい心の内が伝わってきていた。
クロードの登場にも、シリルに焦りはない。ただ淡々と、目的を達することだけを考えている。
不意に、クロードの姿が消えた。
そう思う間もなく、彼の姿が間近に迫る。
振り上げた拳が、シリルに叩きつけるようにして振り下ろされる。
しかし、その拳が彼に届くことはない。
「うっわぁ……、びっくりした!」
シリルの頭上で止まった拳。
不可視の防壁――結界に、クロードの手が阻まれた。
シリルが笑う。
「流石の英雄さんでも、僕の本気の結界は破れないんじゃないかなぁ?」
クロードは黙したまま。結界の内のシリルと睨み合う。
「……まあ、こっちの用はすぐに終わるからさ。そこでちょっと待っててよ」
シリルが魔法詠唱を始めた。
転移魔法に近い文言。けれど、先程の話から、それが転移魔法などではないと知れていた。
レジーナはエリカを見た。気を失ったのか、閉じられた目。薬指に指輪が光る。
あれさえ奪えば――!
しかし、流れ込んできたシリルの思考が「もう遅い」と告げる。
彼女の魂はもう――
「お願い、クロード! シリルの魔法を止めて!」
レジーナは動けない身体で叫ぶ。
クロードが再び拳を振り上げた。結界に向かって振り下ろす。
ドンという衝撃。彼が手にしていた魔石が粉々に砕け、宙に舞う。
クロードが新たな魔石を取り出した。二度、三度と同じ動作を繰り返す。
宙に、緋が舞った――
魔石ではない。彼の拳から流れる血。レジーナの口から抑えきれない悲鳴がもれた。
「ああ、クロード! ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」
自身の無力ゆえに、クロードに身を削らせている。
だけど、「もういい」とは言えない弱さ。
レジーナは涙した。情けなくて悔しい。
声が聞こえた。
「……英雄さん、頑張るねぇ」
レジーナはハッとした。
シリルが詠唱を終えている。
流れ込んで来た彼の思考に、レジーナは戦慄した。
狂気じみた彼の闇に引きずられる。
レジーナは恐慌状態陥った。鼓動が速い、息が上手く吸えない。
「クロード、お願い、指輪を!」
涙でグチャグチャになりながら、レジーナは叫ぶ。
「お願い、シリルの指輪を奪って!」
クロードが、僅かに頷くのが見えた。
彼の拳が、また結界に打ち付けられる。
伝わる衝撃に、シリルが笑った。
「ハハ! 結界にヒビが入ってる! ホント、凄いんだね、英雄さんって」
――だけど、残念。もう間に合わないね……
聞こえた声に、レジーナは叫んだ。
「シリル! お願い止めて、止めなさいっ!」
「止めないよ。……止めるわけない」
言葉と同時、レジーナの足元から眩い光が溢れだした。
(これ、あの時のっ!?)
レジーナたちをこの地に運んだ光。
眩しさに、何も見えなくなる。
「レジーナッ!」
光の向こうで、クロードが呼んでいる。
だけど眩しくて、レジーナはそれ以上、目を開けていられなかった。
諦めと共に、レジーナは目を閉じる。
しかし、突然に、強い力で引き寄せられた。ぶつかるようにして、熱い身体に抱きしめられる。
「レジーナッ!」
クロードの声だ。
光が収束していく。
レジーナはゆっくりと目を開いた。頭上を見上げる。
不安に揺れる碧い瞳。
茫然自失。
レジーナは何も言わずに背後を振り返る。
先程まで、自分が立っていた場所。
光の消えたそこには――
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