テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#狂愛
柏木さくら
829
西原衣都
866
#ロマンスファンタジー
Jasmine
724
瑠璃マリコ
10,376
ふと顔を上げると、視線の先に他の部屋とは明らかに違う大きな両開きの扉が見えた。
あれ……?
さっき、あんな扉の部屋なんてあったかな……。
首を傾げ、足を止めかけたその時だった。
廊下の奥から、男女の話し声が微かに聞こえてくる。
私は何気なく、その声のする扉へと歩み寄った。
そして扉の前に立ち、耳を澄ませる。
すると――。
中から女性の声が聞こえた。
……泣き声?
眉をひそめる。
いや……違う。
さらに神経を集中させた。
叫び声……?
違う。
その瞬間、背筋を冷たいものが走った。
これは――。
喘ぎ声……?
反射的に扉から身を引く。
一度そうだと気づいてしまえば、もう別のものには聞こえない。
扉の向こうから漏れ聞こえてくるのは、快感に震える女性たちの声だった。
しかも一人ではない。
幾人もの声が重なり合い、途切れながら廊下へと流れ出している。
胸の奥がざわついた。
どうしてだろう。
自分でも理由が分からない。
麗香の意味深な言葉のせい?
飲み慣れないアルコールのせい?
この不思議な香りのせい?
それとも――。
首筋をかすめた悠聖の吐息を思い出したから?
脈打つ鼓動が耳の奥で響く。
引き返した方がいい。
そう思うのに、足は動かなかった。
コクリと唾を飲み込む。
そして私は、再び扉へと手を伸ばした。
手を掛けた扉は、カチャリと小さな音を立てた。
扉が開くにつれ、女性たちの悦びに濡れた声がより鮮明に漏れ聞こえてくる。
……この中で、一体何が起こっているの?
強張る指先で扉を押し開く。
恐怖と好奇心。
相反する感情が胸の中で絡み合う。
それでも視線は扉の向こうへと吸い寄せられていく。
きっとここが、踏み入れてはならない禁断の地。
私はゆっくりと、その入り口へ足を踏み入れた。
足を下ろした先は、間接照明だけが灯る薄暗い通路だった。
幅の広い通路の奥には、扉の代わりなのか一枚のカーテンが垂れ下がっている。
カーテンの向こうから漏れる淡い光。
熱を帯びた人々の声。
それらが静かに理性を削っていく。
足音を忍ばせながら近づくと、そのカーテンが深紅のシースルーカーテンであることに気づいた。
透ける布越しに、人影がぼんやりと浮かび上がる。
足が止まる。
だが、視線だけは離せない。
そして――。
カーテンの向こうに広がる光景を目にした瞬間、
「……っ!」
喉元までせり上がった声を両手で押さえ込む。
……信じられない。
頭では理解できないのに、目だけがその場に縫い付けられてしまう。
目の前の光景から、どうしても視線を逸らすことができなかった。
コメント
1件
うわ、これは……引き込まれました。主人公の「足は動かなかった」って心理、すごくリアルでぞわっとしました。扉の向こうの声に気づいてから、分かってるのに手を伸ばしちゃう流れ、すごく巧いなと。深紅のシースルーカーテンの描写も、禁断感がぐっと増してよかったです。続き、めちゃくちゃ気になります!