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「ただいまー」
夕飯の時間にお屋敷に戻ると、食堂ではエミリアさんとグリゼルダ、ジェラードが席に着いていた。
グリゼルダは先にお酒を飲んでいたが、他の二人は特に何も口にしないで待っていてくれたようだ。
「おかえりなさい!」
「おかえり~♪」
「うむ、先にやっておるぞ」
「お待たせしました。それじゃご飯にしちゃいましょう。
キャスリーンさん、準備をお願いね」
「かしこまりました!」
私と一緒に出掛けていたリリーとルークも席に着くと、和やかな雰囲気で夕食が始まった。
「アイナさん、今日はポエールさんのところに行っていたんですよね。どうでした?」
「いや、凄い人数の職人さんが来てくれてて……。えっと、100人くらい?」
「おお、それは凄いのう。
まぁこれからやることに比べればまだまだ少ないとは思うが、まずは良い人数かの?」
「はい。仕事の内容を話せるところまで話して、あとは懇親会を開きました。
そこで銘酒『竜の秘宝』を振る舞ったんですが、やっぱり大好評でしたよ!」
「ふふふ、妾のとっておきじゃからのう。そうじゃろ、そうじゃろ」
「わたしはお酒をあまり飲みませんけど、あれはもう一度飲みたいですね!」
そう言えばエミリアさんって、あんまりお酒は飲まないなぁ。
料理の味を引き立てたりとかもあるだろうけど、飲まない方が好みなのかな?
「私もエミリアさん同様あまり飲みませんが、確かに美味しいですからね」
ルークも頷きながら、エミリアさんの言葉に続いた。
……ルークだって、一人で飲む分には問題ないと思うよ? 1本くらいならあげておいても良いかな?
「それでそのあと、テスト的なものをしたんです。
基本的には良い職人さんばかりを選んでもらっていたんですが、リリーに頑張ってもらって――」
「鬼ごっこをたくさんしたの!」
今回は遊びと称して、リリーには気配全開で鬼ごっこをしてもらった。
終わった後に約1割の人から辞退を受けたが、それでも9割の人が残ってくれた。
合格した人の話を聞いてみれば、リリーの凄まじい気配には|中《あ》てられたものの、『竜の秘宝』のことを考えればどうにかなる……という人が多いようだった。
……酒飲みの執念、恐るべし。
「鬼ごっこの優勝者には、『竜の秘宝』を小さな瓶に入れてプレゼントしておきました。
とても喜んでいましたよ」
「捕まえにくい人が1人だけいたの!
他の人は簡単に捕まえられたんだけどー……」
「そうそう。軽業師みたいな動きの人がいたんだよねー。
その人に話を聞いてみたら、主に高い場所で仕事をする人みたいで。何だか納得でした」
「もしかしたら何かしらの体術を修めているかもしれませんね。
私の攻撃も、一撃くらいは避けられてしまうかもしれません」
ルークも鬼ごっこの様子を思い出しながら、感心するように言った。
「へー、凄いですね。ルークさんの剣を避けるなんて!」
「まぁ、それくらいの者ならいくらでもおるじゃろ。
二度三度、避け続けるのが大変なんじゃよ」
グリゼルダはお酒の入ったグラスを傾けながら、静かに言った。
「あはは、確かにそうですね。
でも普通の人で、ルークの剣を一撃でも避けられるなら大したものですよ」
「私もまだまだ修行をしなければ……!」
一撃でも避けられるのが嫌なのか、ルークは力強く自分に言っていた。
そういえば空き時間で修行は続けているものの、やっぱり一人きりで修行をしているんだよね。
修行って何人かでやった方が良いと思うけど、ルークのためにもそういう環境も作ってあげたいところだなぁ。
「ルーク君、もしよければ僕が修行の相手をするよ♪」
「おお、それは助かります。
ジェラードさんがいる間は、お願いしても良いですか?」
「もちろん♪」
「……っていうか、ジェラードさんは基本的にどこかに出掛けちゃいますからね……。
ちなみに最近はどんな感じですか?」
「そうだね、最近は調べ物もようやく終わってね~」
「以前言っていた、人魚伝説ですよね?」
「そうそう! この前行った浜辺にさ、そのうちまた行くでしょ?
そしたら少し、みんなの時間を取って欲しいんだけど大丈夫かな?」
「それって、ポエールさんたちも含みます?」
「ううん、アイナちゃん一派のみんなだけで大丈夫♪」
「……アイナちゃん一派」
何だか、何となく、よく分からないけど不本意な呼ばれ方の気がする……。
「そういえばアイナさんとはずっとパーティを組んでいますけど、特に名前が無いんですよね」
「ああ、|紅蓮の月光《クリムゾン・ムーン》……みたいな?」
「そうそう、そんな感じのやつです!」
確かにパーティ名は付けた覚えがない。
冒険者ギルドの書類にも記入する箇所はあるんだけど、書いても書かなくても問題ないからね。
「それも何だか、今さらですよね……。
私たちのことなんて、今では名前を出せば一発で分かっちゃいますし」
「確かに……」
「――っと、それは置いておいて。
ジェラードさん、時間の方は大丈夫だと思います。何かあるんですか?」
「ふふふ、それは秘密さ♪」
「はぁ」
ジェラードは人魚伝説をずっと調べていたから、きっとそれに関連することだろうとは思うんだけど、一体何だろう?
まぁ悪い話ではないだろうし、楽しみに取っておくことにしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、私は朝からいろいろと出歩いていた。
まずはアイーシャさんのところに行って、近況報告と、またしばらく出掛けることを伝えた。
出掛ける先は当然、例の浜辺だ。
ポエールさんが職人さんをたくさん集めてくれたから、早速作業が始まることになるのだ。
次に向かったのは錬金術の工房。
ある程度の素材が集まったということで、『野菜用の栄養剤』の作成を依頼されたのだ。
これはあっさりバチッと作って、納品作業は錬金術の弟子のレティシアさんにお願いしておいた。
雑務をこなしてくれる人がいると、本当に助かるというものだ。
そのあとに向かったのは、鍛冶屋のアドルフさんのところだ。
私が国を作ることと、そこに引っ越しをするつもりがあるかを確認しにきたのだ。
「…………」
「どうでしょう?」
「……いや、アイナさんの噂はいろいろと聞いていたよ?
でも国を作るだなんてなぁ。やっぱり規格外のことを考えるよなぁ……」
「まずは街を作るだけですけどね?」
「いやいや、それだって凄いことだぞ?
……ただ、俺の気持ちはずっと決まっているからな。アイナさんがそこに移るなら、俺も移る!!」
「おお!」
「しかし俺も鍛冶屋を構えるとなれば、金が必要だからなぁ。
アイーシャ様に援助を頼まないと……」
「私が作る街だから、便宜は図りますよ?
というか私もずっとお世話になる予定ですから、アドルフさんはお金を出さないでも大丈夫ですよ」
「へ?」
「私、これからやりたいことがあるんです。
ちょっとした秘策なんですけど、それにはアドルフさんの協力が必要なんです。
だからその契約金? みたいな感じでどうですか?」
「は、はぁ……。
あまりに無理難題じゃなければ、問題はないが……」
「いつもの仕事の延長だから、大丈夫だと思います!
武器とか防具とか、アクセサリがたくさん欲しいってだけなので」
「ふむ……。『たくさん』の量次第だが――
……でもアイナさんのことだから、そこまで無茶な話も振らないだろう。分かったよ、オーケーだ」
「ありがとうございます!
ところでアドルフさんって、弟子は取らないんですか?
私も錬金術の弟子がいつの間にかできましたけど、頼りになりますよ」
「弟子、かぁ……。
昔取ったことがあるんだが、修行の途中で出ていっちまって、それっきりなんだよな……」
「私から見れば、アドルフさんもよくひとりでやっているなぁとは思いますけど……」
「……確かにそうだな、俺もいつ身体にガタが来るかも分からないし。
まぁアイナさんに治してもらえば良いんだけど、弟子のこともちょっと考えてみるよ」
「アドルフさんの技術は宝ですからね。絶やしてしまってはもったいないです!」
「ふふっ、ありがとな」
――国が長く発展していくためには、いろいろな技術が欠かせない。
残念ながら、中には失伝してしまうものもあるだろうけど、できる限りは後世に残していかないと。
……そう考えると、私もそのうち、しっかり技術的なところは伝えていかないといけないのかな。
私はずっと生き続けるから、失伝するということは無いんだろうけど。