私は蛹が好きだ。
しがない研究者の私は、2LDKのマンションで、 ずっと研究してきた。
中身は、とか、穴を開けたら、何て疑問は全て解決させてくれた蛹が大好きだった。
罪悪感を覚えない見た目。
飛ぶ事も、歩く事も出来ない。
私が居なくちゃ、生きていけないんじゃないのか?と思う程。
…人間も、蛹になれば良いのに。
ふと、そう思う様になった。
人間なんて言う憎悪や私利私欲にまみれた生き物は、蛹になってしまえば良いのだ。
私がその後、実験に使えば…蛹にとっても本望の死に方だろう。
だが、肝心の被験者が居ない。
…ああ、私が蛹になればいいのか!
世界初の蛹として、皆に驚かれるに違いない!
私が蛹になり、羽化すればどれ程綺麗な蝶になれる事だろう。
そんな事を思いながら、
ごくっ、と薬液を呑み込んだ。
数分も経てば効いてきたのか、身体が固くなってゆく。
早く安全な場所へ行かなければ。
身体が潰れたら一溜りも無い。
寝室のクローゼットに入り、安静にその時を待つのみ。
段々身体が溶ける。
私の解剖した蛹もこんな感じだったのだろうか。
…何日経ったのか。
完璧に溶け切った身体を包む皮膚。
いや、もう皮膚ではなく、外骨格の様だ。
何か、声が聞こえる。
きっと隣人の声だろう。
少しづつ近づいてくる足音。
心臓が有るのかさえ、わからないが…、矢鱈と煩く感じる鼓動。
寝室へ、入ってきた。
誰だ?
目が見えないのだから、解る訳が無いな、なんて冗談や、空き巣か、なんて下らない妄想をしていたその時だった。
「がらがら」
開けられてしまった。
ふわり、と宙に浮く感覚がすると同時に、漏れ出てゆく体液。
ああ、これが蛹達の感覚だったのか。
私は申し訳ない事をしたな、なんて考えながら、その命を終えた。
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