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日を跨ぎ、高速道路を走り抜ける拓人が、不意に思い付いたように、ステアリングを指先で軽く叩いた。
「なぁ。今から…………海に行こうか」
「はぁ? 今から!?」
「そう。今から」
男がステアリングを握りながら、楽しげな言い草で笑みを見せる。
「真っ暗な海辺に行っても、何も見えないじゃん」
「だから行くんだよ。そしたら、波音が聞こえる暗闇の中で……あんたに……あんな事や、こんな事もできるだろ?」
「うわぁ…………アンタって、ホンットにサイテー……」
優子が心底ゲンナリしながら言い捨てると、男はククッと笑いを堪えている。
「そんなサイテーな男に付いていくって言ったのは、どこの誰だっけなぁ?」
「うっ……うるさいわねっ」
サービスエリアへ立ち寄る前に、真剣な口調で『抱かせて』と言われたのが、急激に色褪せていく。
(だったら、始めっから真面目に、『あんな事』を言わないでよね……!)
かなりのスピードで流れていく暗夜の風景を、車窓越しに見やりながら、優子は口元を引き結ぶ。
「さて、海へ向かうぞ」
彼女が男の声にハッとすると、拓人がアクセルを踏み込み、黒のセダンは、真夜中の高速道路を駆け抜けていった。
***
湘南の海に到着したのは、深夜の二時半。
コインパーキングに愛車を止めた拓人は、外に出て助手席のドアを開けた。
「ホラ、着いたぞ」
「ちょっと……どうしたの? いきなり助手席のドアを開けてくれてさ……」
「ん〜…………単なる……気まぐれ?」
優子の前に、男の手が差し出される。
「っていうか、自分で降りられるし!」
彼女は唇を『への字』に曲げながら、大きな手をスルーさせると、そそくさと拓人の車を降りる。
男の、どことなく寂しげなため息が、微かに優子の鼓膜を震わせたような気がした。