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海沿いの国道を横断すると、すぐに海岸へ着いた。
辺り一面は闇に覆われ、空には控えめに輝く星、寄せては打ち返す波の音と、二人が砂浜に刻む足音しか聞こえない。
「さすがに、ずっと運転してるとキツいな……」
拓人は、そのまま腰を下ろし、脚を伸ばした。
「ちょっと。お尻が汚れるよ?」
「別にいいよ。あんたも座ったら?」
「う……うん」
優子も、おずおずと砂浜に座ると、二人は無言のまま、黒く染まった海に視線を向けた。
「…………アンタもさ、私と似たような環境で育ったとは思わなかったよ……」
暗闇に視界が慣れてきた頃、沈黙に耐えきれずに、優子が小さく口を開いた。
「さっき、あの山小屋で、初めてアンタの事を聞いたでしょ? うちも、両親が厳しい人でさ。中学受験させられて、私立の女子中、女子高に通わされた。大学は共学だったけどね」
「へぇ。あんたも中学受験をさせられたクチか」
「うん。でも私は、アンタみたいに、無言で親に反抗はできなかった。親に褒めてもらいたくて、アホみたいに勉強を頑張ってた。ファッションが好きだったし、憧れのブランド、Hearty Beautyに就職が決まった時も、親は、大手企業に就職して当たり前、って感じで……」
自分のこれまでの人生を、初めて拓人に打ち明けながら振り返っていると、優子の胸の奥に小さく空いていた心の隙間が、少しずつ大きくなっていくのを感じた。
「社会に出るまで…………私は……誰にも褒められずに……生きてきた。社会人になって、私は、仕事で初めて…………褒められた。それが……すごく嬉しくて…………」
今まで黙って彼女の話を聞いていた男が、表情を変えた気配を滲ませている。
「あんたを初めて褒めたヤツが…………アイツ……なのか?」
「…………うん」
憂うように笑みを見せる優子が、ぎこちなく首肯させる。
「多分……私、ずっと褒められもしないで生きてきたせいか、承認欲求が強いのかもしれない。誰かに認められたい、誰かに愛されたいって…………ずっと……思ってきたから……」
「…………そうか」
それきり、二人の間には沈黙に包まれ、墨黒に染め上げられた海を見つめながら、緩やかに時間だけが過ぎていく。
「あっ……」
不意に、男が朧げな水平線を見やりながら声を零す。
「どうしたの?」
「…………もうすぐ、夜が明ける」
優子は、陰影を湛えた男の表情を、チラリと伺い見た。