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森の道が塞がっていた時には薬の運搬はオオワシのブリッドが担い、納品などの直接のやり取りは道具屋の女主人が仲介人として代行してくれていた。街へ自在に行き来できるようになった今は、瓶詰めできた薬は種類ごとに木箱や麻袋に入れて作業部屋の扉の前に積み上げておくと、庭師が帰り際に荷馬車に乗せて街にある薬店へと納品しに行ってくれる。


契約獣を使っていた時よりも小まめな納品が出来ているおかげで一度に送り返されてくる空瓶の本数が減ったかと言えば、不思議とそうではなかった。クロードが持ち帰って来てくれる薬瓶は少しも減る様子がない。


「おかしいわ」


葉月と二人体制で毎日のように薬作りをしているから、調薬ペースはかなり上がっている。サボりがちだった時と比べると何倍もの量を納品し続けているのに、いつまで経っても瓶は無くならない。確実に減ってはいるけど、いつまで経っても作り終わる気配がないのは変だ。


「どうしてこんなに量が要るのかしら?」


月別に紐綴じしている納品書の控えの束をパラパラと捲り、首を傾げた。数か月前の物とは明らかに束の厚みが違う。余分にストックするにしても、それほど長期保存できる物でもないのでここまで必要はないはずだ。


どう考えても、街の薬店が一店舗で売り捌けるとは思えない量なのだ。これは調べる必要がありそうだ。


「特に何も聞いてないなぁ」


生垣の手入れをしていた老人からは何も情報は得られなかった。指示されている通りに薬を運んで、代わりに新しい空瓶を受け取ってくるだけで、店主とは個人的な付き合いもない。


「そういや、持っていく量に比べて、店に並んでるのが少ないかもな」


他に在庫置き場がある訳ではない小さな店だから、納品されたらそのまま棚に並べていくはずなのに、最近はいつ顔を出しても並んでいる薬瓶の数が少ない気がする。単純によく売れているのかと思っていたけれど、そうではないのだろうか。


「そう。ありがとう、確認した方が良さそうね」


眉を寄せて難しい顔のままベルは庭師にお礼を言った。どうやら悪い方に予想が的中しそうで、少し頭が痛い。


「まあ、ただの出来心ってやつかもしれんし、大目に見てやってくれや」

「ふふふ。どうしようかしら」


すぐにバレるような手口なことを考えると、老人が言うように一時の気の迷いなのだろう。でも、黙って放っておく訳にもいかないのも事実。下手すると外交問題にも発展する可能性があるのだから。


領主である叔父に報告すべきかどうかも少し考えてみたが、今回はそこまではしないことに決めた。


作業部屋に戻ると、一通の手紙をしたためてから契約獣を呼び寄せた。大きな羽音を響かせて現れたオオワシに、書いたばかりの手紙を託す。きっとすぐに返事が返ってくるはずだ。


「大丈夫よ。今回は警告するだけ」


心配そうに様子を見ている葉月へと、安心させるように微笑みかけて、いつも通りの調薬の作業へと戻る。


その返信は本当にすぐに届いた。二人が昼食後の薬草茶でまったりとしていた時に、ブリッドが羽音を立てて戻ってきた。受け取った手紙に目を通し、ベルは諦めたようにふぅっと息を吐いた。


「薬屋さん、来るそうよ」

「今日ですか?」

「そうみたいね」


面倒だわと思わず口にしてしまい、給仕中のマーサに睨まれた。上手くいけば手紙のやり取りだけで済むかもと軽く考えていたが、そうは簡単にはいかなかった。少しばかり圧を掛け過ぎたかもしれない。


オオワシに返事を託してからすぐに街を出たとしたら、待っている間に他のことをしている時間は無さそうだと、諦めてソファーで適当な書物を捲っていた。こんな昼間から読書をするなんて、随分と久しぶりな気がする。以前は薬作りをしたくなくて、作業から逃げるように本を読んでいたくらいなのに。


葉月もさすがに今日は調薬する気にならないらしく、天気が良いので外の手伝いに行ってきますとクロードのところへ行ってしまった。


ベルが手にしていた本を半分ほど読み進めた頃、結界への侵入に気が付いた。本を棚に戻して、カップに残っている薬草茶を飲み干した。


「いらっしゃいましたよ」

「ええ。お通しして」


マーサに引き連れられてホールへと入って来た薬店の店主は、ベルの顔を見ると勢いよく床にうっ伏した。


「も、申し訳ございませんでしたっ!」

「あら。いつの間に代替わりされたのかしら?」


いきなり土下座した男に、ベルは全く見覚えがない。見知っていた店主とは何となく雰囲気が似ているから、おそらく息子なのだろう。三十過ぎたばかりの若い店主は、領主の別邸という慣れない場所にすっかり萎縮してしまっているようだった。


「はい。二年ほど前に後を継がせていただきました……」


言われてみれば、そのくらいに店主が隠居したという連絡を受けた気がする。仲介人を通してやり取りしていた時期のことだったから、特にあまり気に留めていなかった。

思い返せば、以前の「回復薬無しの納品は受け付けない」などといった強気の条件を付けてきたのも、店主が変わっていたからだとやっと納得できた。ベルの知っている店主はそんなことをする人ではなかったから、ずっと不思議に思っていた。


「それで、どちらに流してたのかしら?」


ソファーにかけるように促して、自らも先に座ってから静かに問いただす。

森の魔女の作った薬をどこへ売ったかによっては、事の大きさが変わる。場合によっては彼の店との契約を白紙に戻す必要もある。

猫とゴミ屋敷の魔女 ~愛猫が実は異世界の聖獣だった~

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