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その日もまたラーメンをご馳走になり、帰りもマンションの前まで送ってもらった。
柊と別れマンションへ入った花梨は、小さくため息をついてエレベーターに乗った。
五階で降り、部屋の前まで行き鍵を開けて中へ入る。
(偶然とはいえ、最近いつも課長と一緒だわ……)
転職してから、やたらと柊と行動を共にしていることに気づき、花梨は再びため息をついた。
(あんなイケメンの上司なのに、緊張せずに普通に会話できてる。それって、私が課長のことを男として意識してないってことだよね?)
花梨はそんな風に思った。
(そういえば、課長って結婚は? 指輪はしてなかったけど、今はあえて結婚指輪をしない人もいるし……。将来を約束されたエリートだもの、きっと素敵な奥様がいるんだろうな)
ソファに座り、ぼんやりそんなことを考えていた花梨は、急にハッとした。
(ダメダメ! 課長とはあくまで上司と部下なんだから、ビジネスライクに徹しないと!)
花梨は頭を振りながら、自分にそう言い聞かせる。
しかし気を抜くと、先ほど屋台で美味しそうにラーメンを食べていた柊の横顔がつい浮かんでくる。
(『王子様』がラーメンを食べる姿は、意外とワイルドだったわ……)
そこで再び花梨はハッとした。
(ダメよ花梨! 意識を他に向けなさい!)
彼女はそう自分に言い聞かせながら、余計な邪念を洗い流そうとバスルームへ急いだ。
一週間後、花梨は柊が運転する営業車で浜田家へ向かっていた。
「売却価格がまとまったから、いよいよ今日は媒介契約を締結だ。ここまで来ればもう安心だろう」
「良かったです。村田トラストに横取りされたらどうしようと心配でしたから」
「あとは、良い買い手が見つかるといいんだが」
「頑張ります!」
「浜田様の納得がいくような縁があればいいな」
浜田家に到着すると、二人を待ちわびていた浜田夫人が表まで出てきた。
「いらっしゃい! お待ちしてたわ」
「「本日はよろしくお願いいたします」」
「こちらこそ、よろしくね!」
浜田は笑顔で言うと、二人を応接室に案内した。
そして、二人の前にコーヒーを置きながらこう言った。
「ようやく温かい飲み物がしっくりくる季節になってきたわねぇ」
「ありがとうございます」
素敵なカップに入ったコーヒーを見て、花梨は礼を言った。
コーヒーを一口いただくと、彼女はすぐに媒介契約書を取り出した。それに気づいた浜田は、すかさず言った。
「サインの前に、ちょっと聞いてちょうだいよ!」
「何かございましたか?」
柊が驚いた様子で口を開くと、浜田はこう言った。
「ほら、この間、あなたたちがうちを出た後すぐ、村田トラストさんが来たのよ」
「ああ、あの日私たちも表で会いましたよ」
「あらやだ、そうだったの? え? あそこって水島さんが前にいらした会社だから、もしかして顔見知り?」
「はい……」
花梨は思わず苦笑いを浮かべる。
「まあ、そうだったの! でも参っちゃったわよ。アポも取らずにいきなり来るんですもの。村田トラストさんの営業って、ああいうのが当たり前なの?」
浜田の問いに、花梨は答えた。
「いえ、私がいた頃は、必ずアポイントを取ってからお伺いするのが基本でしたが」
「そうよねぇ、それが普通よねぇ? なのに、いきなり来たから驚いちゃったわ」
その時、柊が口を開いた。
「彼らは、なんと言ってこちらに?」
「それがねぇ、前にお電話できっぱり断ったはずなのに、いきなり来て『もう一度お考え直しいただけませんか?』ですって! 呆れちゃった!」
「「…………」」
その強引な営業手法に、柊と花梨は絶句する。
「それとね、一緒に来た女性社員が、なんだか前に来たおたくの会社のあの方にそっくりで……」
「円城寺ですか?」
「そうそう、円城寺さん! 一緒にいた男性社員に、やたら色目ばかり使って……もしかしたらあの二人デキてるのかも!」
柊と花梨は呆れていた。不動産会社の営業たるもの、まずは顧客に不快感を与えないよう、最低限の礼儀をわきまえるのが基本だ。それなのに、卓也と莉子はアポも取らずに浜田家へ押しかけただけでなく、莉子は顧客の前で卓也に色目を使っていたようだ。それを知った二人は、呆れ果ててしばらく開いた口が塞がらなかった。
そこで、柊が口を開いた。
「それは災難でしたね。でも、今後は我々が責任を持って、大切なご実家の売却を進めさせていただきますので、どうぞご安心ください」
柊の言葉を聞き、浜田はホッとした様子で言った。
「城咲さん、お願いしますね。やっぱり、長年お付き合いのある高城さんのところにお任せして良かったわ。水島さんもよろしくね!」
「こちらこそ。誠心誠意、務めさせていただきます」
花梨がにこやかに返事を返すと、浜田はホッとした様子で穏やかな笑みを浮かべた。
その後、浜田は花梨が提示した『専任媒介契約書』にサインをし、無事に高城不動産ソリューションズとの媒介契約を結んだ。
浜田家を出ると、柊が花梨に言った。
「初契約、おめでとう!」
「ありがとうございます。 これも、課長のサポートのおかげです」
「俺は何もしていないよ。あとは、浜田様に納得いただけるような良い買い手が見つかるといいな」
「はい。浜田様のお気持ちが尊重されるような、良いご縁に繋げられるよう頑張ります」
「頼むよ。じゃあ、社に戻ろうか」
「はい」
花梨は晴れやかな表情で元気に返事をし、柊に続いて車に乗り込んだ。
コメント
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お客様はいろいろ見ております‼️契約成立よかったです😊 さて、これから2人はどうなっていく⁉️期待してます🤭
浜田さんは色々見抜いてらっしゃる(* ̄艸 ̄)しかも莉子と萌香が似てるだなんて🤣🤣 強引で空気も読まないわ気遣いもない連中とは取り引きしたくないよね( ̄^ ̄)ゞ 末永くお付き合いできる柊さん&花梨ちゃんの誠実さに乾杯だよ🫶💕💕
ラーメン イケメン 豆腐は木綿 漢字で書けるよビャンビャン麺 白タクサゲマンズは くたばっちまえアーメン また昭和のヒット曲で〆てもうた。