テラーノベル
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重苦しい沈黙が白縫家の居間を支配していた。
誰もが今日一日で得た情報を頭の中で整理しようとしている。しかし、断片的な事実ばかりで、教団の全貌は未だ霧の中だった。
やがて龍河が静かに口を開く。
「ここで論じてても埒があかないな」
一同の視線が彼へ集まる。
「とりあえずは今日知り得た情報を元に
俺と編集長で双方のツテ頼って色々調べてみる」
信愛が不安そうに身を乗り出した。
「あの・・・私たちは?」
龍河は穏やかな表情で答える。
「色々情報が入ったとはいえ
教団の目的の全容はまだ不透明なままだ」
一拍置き、真剣な眼差しで続ける。
「今のまま無闇に動くのは危険すぎる
だからこっちが何かしらの情報を
掴むまでは待機していて欲しい」
焔垂が遠慮がちに尋ねた。
「何かお手伝い出来る事はありませんか?」
龍河は小さく首を振る。
「気持ちはありがたいが、情報次第では
県外に行く可能性もあるから、そうなると
高校生が一緒だと色々動きづらい」
信愛は少し肩を落とした。
「そう・・・ですよね」
それでも龍河は力強く笑みを浮かべる。
「でも任せてくれ。何としてでも
情報を掴んでみせるから」
銚子が深々と頭を下げた。
「お願いします」
「はい!任せて下さい」
龍河は立ち上がり、玄関へ向かう。
「じゃあ俺は行きます」
扉へ手を掛ける直前、振り返った。
「みんな?いいか?」
全員が龍河を見つめる。
「ここから先はかなり危険だ。絶対に自分ら
だけで調べようなんてするんじゃねーぞ?」
信愛は力強く頷く。
「はい!」
茜も笑顔を浮かべながら頷いた。
「馬場さんの情報・・待ってます」
「ああ、待っててくれ」
龍河はそう言い残し、静かに白縫家を後にした。
◇ ◇ ◇
龍河が去った後の白縫家では、残された者たちが今後について話し合っていた。
信愛はソファへ腰掛け、不安げに呟く。
「これからどうしたらいいんだろ・・・」
茜がカレンダーへ目を向ける。
「明後日からは普通に学校あるけど」
朝陽は腕を組みながら静かに言った。
「どこに教団の人間が潜んでるか
わからない状況ですからね」
焔垂も続ける。
「登校中に狙われる可能性だってあるし」
信愛は俯いた。
「それだよね・・・」
銚子は娘を優しく見つめる。
「信愛はしばらく学校は
休んだほうがいいかもしれないわね」
信愛は驚いて顔を上げた。
「え?学校を?」
焔垂が静かに頷く。
「そうするのが最適ですね
狙いは白縫さんとお母さんな訳ですから」
「そうだよね・・・」
沈んだ空気を払うように、茜が苦笑する。
「いつもなら『信愛ばっかり休めてズル〜い』
って言うとこだけど今回ばかりは辞めとく」
焔垂は呆れたように肩をすくめる。
「ならそれも言うなバカ」
一瞬の静寂の後、さくらが吹き出した。
「きゃはは、確かに」
その笑いにつられるように、信愛もようやく小さく笑みを浮かべる。
「ふふふ」
張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
しかし朝陽だけは、その空気に違和感を覚えていた。
下手したら天縁教団の人間に命を狙われるかもしれないという危機的状況の中、皆が楽しげに笑っているこの現状は、朝陽には到底受け入れる事のできないものだった。
「とりあえず、これからの事は馬場さんと
編集長さんに任せる事にしましょう」
銚子の言葉に誰も反対はしなかった。
今は自分たちが動くより、経験豊富な二人を信じるしかない。
◇ ◇ ◇
その日の夜。一同は白縫家で夕食を済ませ、それぞれ帰宅路を歩いていた。
住宅街の夜道を、街灯の明かりだけがぼんやりと照らしている。
茜が満足そうに笑う。
「信愛のお母さんが作る料理、全部美味しかったよね」
焔垂も大きく頷いた。
「ああ、金取れるレベルだったよな。
霊能力者としても本物で、おまけに
料理も美味いとかすげーよな」
茜は悪戯っぽく笑う。
「まぁ、信愛にはその料理の腕は
遺伝しなかったみたいだけどね(笑)」
「きゃははは」
さくらが声を上げて笑う。
焔垂は苦笑しながら肩をすくめた。
「それ本人の前で言うなよ?」
三人は他愛もない会話を交わしながら歩いていく。
しかし、その輪から少し離れた場所を歩く朝陽だけは違っていた。
俯いたまま、一言も口を開かない。
その沈んだ表情に気付いた焔垂が声を掛ける。
「どうした? 朝陽」
茜も心配そうに覗き込む。
「何かあった?」
さくらも思い返すように言う。
「そう言えば、ご飯食べてる時から元気なかったよね?」
朝陽は小さく息を吐いた。
「そりゃそうでしょ・・・」
三人は顔を見合わせる。
「ん?」
朝陽は足を止める。
街灯の光が、その真剣な横顔を照らしていた。
「こんな状況で笑える訳ないじゃないですか!」
その言葉に、その場の空気が凍りつく。
「みなさんは何で笑ってられるんですか!?」
焔垂は目を丸くした。
「え?」
朝陽の感情は、そこで一気に溢れ出した。
「だってそうでしょ?
信愛先輩やお母さんの命の危機だって言うのに
まるでそれが無かった事みたいに普通に笑ってて
ことの重大さがまるでわかってない!」
怒りとも悲しみともつかない感情が、その言葉には滲んでいた。
「こんなの・・こんなの絶対におかしいですって!」
さくらは思わず呟く。
「朝陽くん・・・」
茜も困ったように口を開く。
「いや、これはね?信愛の──」
しかし朝陽は首を横に振った。
「みなさんがそんな薄情な人だとは思いませんでした」
そう言い残すと、朝陽は目に涙を浮かべながら踵を返し、夜道を駆け出した。
「お、おい!朝陽!」
焔垂が慌てて呼び止めが、朝陽は振り返ることなく、そのまま暗闇へ消えていった。
茜は呆然と呟く。
「あ〜・・行っちゃったよ・・・」
焔垂は頭を掻きながら深いため息をつく。
「ったく、あいつ・・・」
さくらは走り去った朝陽の背中を見つめ、小さく苦笑した。
「すっごい勘違いしてんじゃん、朝陽くん」
茜は寂しそうに笑う。
「私たちが笑ってたのは、信愛の為だって言うのに」
夜風が静かに吹き抜ける。
朝陽にはまだ、皆の笑顔の本当の意味が伝わっていなかった。
コメント
1件
第274話お疲れ様です!朝陽の「なんで笑ってられるんですか」って感情爆発、めっちゃわかる…。でも茜たちが笑ってたのは信愛のためで、どっちも正しいんだよな。このすれ違いが切なくて、でも彼らなりに守ろうとしてるのが伝わってくる回だった。次が気になるわ🔥
#普通
野々さくら
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ありあ
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