育った国とはあまりに違う環境に、ミヒは気重な日々を過ごしていた。
寒さもだが、外を眺めても石塀が目に写るだけで閑散としている。
あの庭は、もうないのだと幾度となく、自分に言い聞かせたことか……。
「母屋はずいぶんとにぎやかね」
屋敷内に、男達の笑い声が響いていた。
敷地には、主人の部屋を置く母屋を中心に、ミヒの住まう棟、侍女達や下男達の住まう棟が点在していた。
建物はどれも小さく、中に入れば天井は低い。
暖まった空気を逃がさないためで、外見がどんなに立派だろうと、房《へや》は必ず狭苦しい。
すべて冬の寒さを考えてのこと。あの屋敷とは、あまりにも違いすぎた。
「はい。お客様がおみえで、宴《うたげ》を……」
パチリと火鉢の炭がはじける。
主人であるチホのいいつけで、屋敷の者はミヒの部屋をことのほか暖めた。
「また母屋に女を詰めさせているのでしょ?」
ミヒは、炭をくべている侍女に問った。
「ミヒ……いえ、ショウ様。ご安心くださいませ。旦那様は、今宵もこちらへお下がりになられます」
来客のたびに、チホは宴を開き、遊び女《め》をはべらせ客をもてなす。
冬は雪のせいで、訪れる客などほとんどいないのに。よほど、特別な商談なのだろう。
ミヒは赤い絹でできた背もたれに、もたれこんで息をつく。
(……床に直接座るなど……考えられられない……。)
この辺りの建物は、石を組んだ基壇《きだん》の上に立っている。
床下に空間を作り、暖めた炭を置いて暖をとる。基壇は石窯のように、熱を充満させる。
その温もりの恩恵を受けようと、この国では、直接床に座り、横になる。
──赤い背もたれも気に障った……。
この国の者は、目に焼き付くような、極彩色の色合わせを好んだ。
垢抜けないにもほどがある。
そして、叫びに近い女の笑い声が――。
母屋は宴もたけなわ。もれてくる賑わいが、ミヒには耳障りで仕方ない。
「ああ、ずいぶんと騒がしい。お前だって、宴のたびに、旦那様に抱かれているんでしょ?」
侍女にミヒは苛立ちをぶちまける。
「旦那様は、また遠出なさるのかしら?特別な宴のようだし」
「さあ、わかりません……」
侍女は口を濁した。
「ふん!どこの屋敷に押し入るか、そんな話ばかりじゃない!お下がり!旦那様に、告げ口するといいわ。きっと喜んでお前を抱いてくださるでしょう」
不機嫌な女主《おんなあるじ》から逃げるように侍女は下がった。
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