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某家守近のこと

某家守近のこと

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某家守近が妻徳子のこと3

2024年05月05日

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「さてと、私も馳走になろうかな。武蔵野や、そちらの麗しき姫様に、同席のお伺いをたてておくれよ」


守近の飄々とした、それでいて、手慣れた人扱いぶりに、なんと粋な貴公子様でしょうと、女房達は、さんざめく。


「ご自分でなされませ!」


武蔵野は、からかわれたと、仏頂面を崩さない。


「だそうです。徳子《なりこ》姫?」


言って、守近は、徳子の側に腰を下ろした。


「あら、守近様も、武蔵野も、仲が、およろしいこと」


「あれ、徳子姫。仲が良いのは、私達ではありませんか?今まで、仲違いのひとつもしたことがありませんよ?」


お約束のごとき守近の甘い言葉に、きゃぁと、沙奈《さな》が、小さく声をあげ、女房達は、赤らんだ頬を隠すよう袖を顔にあてて、遠い目をする。


このように、屋敷の者は、常に、二人の仲に惑わされていた。


そんな周りの様子などお構いなしで、守近は、目についた菓子を口へ放り込んだ。


「おや、これは、旨い。うん、程よい甘さがたまらない」


よほど気に入ったのか、守近は、再び手を伸ばす。


一瞬にして、場に流れていた甘やかな空気が凍りついた。


「あー守近様ー!」


沙奈《さな》が挙げた声に、


「おや、お前も欲しいか。あれ、私が食べてしまったようだ。残念だったね、沙奈」


ははは、と呑気に笑っている主に、一同は、ふるふると首をふり、そうではないと訴えかける。


が、事既に遅し。


座っていたはずの徳子は、立ち上がっていた。


その表情はいたく険しい。


初めて見る女主《おんなあるじ》の剣幕に、仕える皆は、戦《おのの》いた。


「私《わたくし》の、干し棗《なつめ》……」


「ああ、徳子姫も召し上がられたか。なかなか美味でしたね」


女房達は、いっそう、首を振って、守近に知らせるが、気が緩みきっている守近は、この異変に気が付かない。


「おや?徳子姫。如何いたしました?もしや、お加減が優れませぬか?」


問う、守近へ返事するわけでもない徳子の、らしからぬつれなさに、守近は思わずその袖を引いていた。


「どうなされました?何か、お気に触る事でもございましたか?」


徳子は、振り払うように袖を翻し、「知りませぬ!」と、いい放つと、居室である奥の座所へ姿を消した。


「お、お待ちを!何をっ!!徳子姫?!ちょっとっ!!」


訳が分からずの、守近は徳子を追った。


すぐさま、間仕切る几帳越しに、二人の言い争う声が漏れ聞こえてくる。


女房達は、耳をそば立て様子を伺いながら思う。


まさか、宴席で、主《あるじ》夫婦の初争いを目睹《もくげき》するとは、と。


「あぁ、食べ物の恨みは、げにおそろしきかな」


武蔵野が、ぽつりと呟いた。

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