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狩人達が使う小屋の裏からトラビスが荷車を持って来てくれた。ルナールが狩っては来たが、三人では食べ切れなかった獣を全て荷車に乗せ、落ちない様ロープで縛る。

「さぁ行きましょうか!」

柊也達に声を掛けてトラビスが元気に歩き出す。彼が持って来た木製の荷車はちょっと古くて引っ張り歩くたびに軋む音が響いたが、トラビスは構わずそのまま歩いた。

「ここからは十五分程度で村の敷地に入れます。ルプス王国の中では小さな方に入る村ですが、漁業が盛んで、彩色豊かな建物がなかなかのもんですよ。町並み見たさに観光客も沢山来てくれるんで、今じゃ宿屋も多いし、お二人ともゆっくりできると思います」

自慢の村を思い浮かべて楽しそうに話すトラビスに対し、ルナールが「観光では無いので、ゆっくりはしませんよ」と横槍を入れた。


「さかな!魚食べたいです!僕島国出身だからか魚好きなんですよね。綺麗な町並みとか見るのも好きなんで、楽しみだなぁ!」


柊也が慌ててフォローを入れる。ルナールの言う事はもっともだが、『言わなくても良い情報を何故言うかな⁉︎』と柊也はちょっと思った。

「あはは……まだ許してもらえていないみたいですねぇ」

昨日。歓喜のあまり柊也に抱きついてしまった事を思い出し、トラビスが遠い目をする。『やっぱりお二人は仲良いじゃないですか』と言ってしまいたいが、もしかしたら片想いなのかもしれないなと察して口を噤んだ。

「許すって?」

「何でもないですよ、独り言です」

ニコッと笑って、トラビスが誤魔化す。

「【純なる子】の来訪に、絶対にみんな喜びますよ。最近になって、うちの村でも呪いのせいじゃないかって変化がそりゃもう沢山出始めたんで、問題になっているんです」

「トラビスさんの失明以外にも、ですか……」

「はい。大概は人間化しただけの者ばかりなんであまり生活に影響は無いんですが、記憶や好みに影響が出た人達は、かなり混乱していますね」

「それは早くどうにかしないと」


「是非お願いします。——あ、着きましたよ、ここがレーヌ村です」


トラビスが柊也から視線を逸らし、正面を見る。彼に倣い柊也も正面を向くと、森の開けた先に、こじんまりとはしているが色彩豊かな村が広がっていた。


「か、可愛い!」

「トウヤ様の『可愛い』は範囲が広いですね」


目をキラキラさせて景色を楽しむ柊也に、ルナールが微笑ましげな声で言った。

森を抜けたすぐの場所であるこの位置は高台になっていて、右側にある緩やかな下り坂をおりて行けば村に入れる造りになっている。赤や黄色い壁色に紺色の屋根をした一階建ての家々が多く並び、村の奥には入江やこじんまりとした港が見え、白い船が何艘か停泊していた。村の周囲は高い崖に囲まれていて天然の城塞の様だ。樹木や花も沢山植えられており、のびやかな雰囲気が村中に漂っている。

潮の匂いがする空気をすっと肺に吸い込むと、柊也が一人、坂道を駆け出した。ゲームみたいな村の景色にテンションが上がり、ジッとしていられない。学校かバイトばかりの生活なうえ、両親は抱え続けている苦悩を誤魔化すみたいに仕事三昧だったので、旅行へ出た経験など修学旅行くらいだった柊也は、本物の綺麗な景色で気分が高揚するのをどうにも出来ないみたいだ。


だが、緩やかだとはいえ『坂』は『坂』だ。


最初は制御が出来ていて、坂を下りていて楽しいと感じながら走っていられたのに、先へ進めば進むほど脚が勝手に動き、どんどん自分ではもう止まれなくなってきた。


(あ、これヤバイ。アカンやつだ!)


そうは思うも、柊也は「うわぁぁぁ」と叫ぶばかりで『助けて!』すら言う余裕が無い。

「——んなっ⁉︎何をやってるんですか!トウヤ様っ」

叫ぶと同時に大荷物を背負ったままルナールが駆け出し、坂道を大慌てで下りて行く。獣人特有の脚力で先へ先へと走り、柊也を追い抜き、前に出た。『んな場所に立ったら思いっ切りぶつかるってばぁ!』と焦る柊也を、ルナールは焦る事なく冷静に、ガッチリと自身の胸で抱きとめた。

全力で柊也がルナールに対してタックルをかましたみたいになったせいで、背後に体が押され、地面に残るルナールの足跡が少しえぐれている。それを離れた位置で見ていたトラビスが「絶対にあれ痛いわー……」と、ゾッとした顔で呟いた。


先の読めない行動をする柊也に少し呆れながら、ルナールが柊也の髪の中に顔を埋める。怪我をさせないで済んだ事に安堵して息を吐き出すと、柊也の瞳が不安気に揺れた。

「ごめん……ルナール。痛かったよね……怒ってる?」

柊也の不安を拭い取る様にルナールが柊也の肩を抱き、髪に埋める頭に頬ずりをした。

「まさか!トウヤ様は、ただ楽しかっただけですもんね。でも、次は気を付けて坂を下りてください。貴方に怪我はさせたく無いので」

優しく声をかけてくれた事が嬉しくって、柊也がルナールの服にギュッとしがみつく。


(あんまり心配をかけないようにしないとな。一応もう僕だって大人なわけだし、あんまり子供っぽい行動は控えねば)


そう決意を固めつつも……今はちょっと甘えちゃおう!と、まだ少しバクバクする心臓を抱えたまま、柊也がルナールに縋り付く。


(めっちゃくちゃ走ったはずなのに良い香りだし、細く見えるくせに胸筋や二の腕もすごい逞しくって、色々ズルイ人だなぁ)


頰を体に擦り付けられてルナールの体がピクッと震えた。こうも甘えられると口元がどうしても緩んでしまう。『トウヤ様に他意は無い、他意は無いんだ……』とルナールが自分へ言い聞かせるが、柊也の肩を抱く腕に力が入った。


ガラガラと大きな音をたてながら、トラビスがやっと二人に追いついた。『こうも仲良さげなのに付き合ってはいないって……何でかなぁ?』と不思議に思う。

「……俺も早く嫁さん探そ」

公道のど真ん中でイチャイチャと抱き合っているだけにしか見えない柊也達を前に、トラビスがボソッとこぼした。




村に入り、三人が中心部にある広場を目指す。『広場に隣接する村長の家に行って事情を説明すると話が早い』とトラビスが教えてくれたからだ。


「賑やかですね、活気があっていいなぁ。こういう雰囲気、僕大好きです!」


小さな子供の手を引き散歩をする親子。露天や商店から聞こえる呼び込みの声や、路上を花で飾り付けする人々があちこちで笑い合っている。そんな行き交う人々の幸せそうな様子を見て、柊也が嬉しそうに笑った。

「いつもはのんびりとした村ですが、今日は賑やかですよー。村長の母が百歳を迎えたので、そのお祝いをする日なんです。元々数人から始まった小さな村だったので、みんなの節目は村をあげてお祝いする習慣が今でも残っているんですよ」

「めっちゃ素敵ですね、それ!」

柊也の言った『めっちゃ』ってなんだろう?と、トラビスが首を傾げる。

「多分、『とっても』という意味じゃあないかなと」

ルナールに小声で説明され、「あぁ、なるほど。ルナール様はトウヤ様のこと、ちゃんとわかっているんですね」と小声で返しつつ「流石ですね!」と持ち上げる。ちょっとでも心象を改善出来ないかなーとトラビスは期待したが、当然だろと言いたげな視線しか返してはもらえなかった。


しょぼんと肩を落としながらトラビスが歩いていると、三人の元へ褐色の肌をした一人の男性が駆け寄って来た。

「トラビス、随分と大荷物だな!こりゃみんな喜ぶぞー獣の肉はいつも足りないから、すぐまた狩りに行って来いって言われるもんな」

「ラウルか、今夜の準備お疲れ様。そっちは進んでる?」

トラビスの横に並び、ラウルと呼ばれた男が一緒に広場を目指し始めた。

「あぁ、もちろん。祭りの準備にかけては俺の右に出るもんはいないからな!」

へへへっとラウルが笑うと白い八重歯がちょっとこぼれた。

「そっちの二人は?観光客か?」

トラビスについてくる柊也とルナールにラウルが気が付いた。

「いや、俺の恩人だよ。森で野犬に追われていた俺を、蹴りだけで助けてくれたんだ!すごいだろ」

「け、蹴りでか。すげぇな」

トラビスの話しを聞き、敵には回したくないなとラウルは思った。


「しかもな、【純なる子】の一行なんだぞ」


ラウルはキョトン顔で「……は?」と間の抜けた声をこぼしたが、すぐに「まったまたー冗談言いやがって。んな期待持たせるような事言うなよ」と言いながら、トラビスを背中をバンバンと叩いた。

「冗談じゃないんだって!急に失明して、抵抗する術が無いまま野犬に追われていた俺を助けてくれたうえに、その場で即、目を直してくれたんだから!」

んな強く叩くなよ!と言いたげに、トラビスが腕を動かしてラウルの手を避けさせる。『本当かよ……』と思いながらラウルは柊也達の方を向いたが、明らかに視線はルナールを見ていた。

「この方が?本当に?」

驚きでラウルの声が震え、失礼だという事も気が付かぬまま指をさしてしまう。

「あぁ!失明してたせいで何が起きたのは見られなかったけど、治ったのは確かだよ」

なぜかトラビスが誇らし気に胸を張る。そんなやりとりを歩きながら見ていた柊也が、ちょっと照れ臭そうに頰をかいた。


「是非、是非とも村の呪いを解いて下さい!」


目を輝かせ、ラウルが柊也達の方へと即座に近づいたが、視線はルナールの方を見たままだ。

「あ、ちなみにその方は狩人のルナール様で、【純なる子】はそちらに居るトウヤ様の方だからな?」

トラビスの説明を聞き、「へ?」と抜けた声をあげてラウルがルナールの側に居る柊也の方へ視線を移した。キラキラと輝いていた瞳が今度は驚きに変わり、ラウルは「——子供じゃん!」と大声をあげた。

「あ、や……これでも二十歳なんで、僕の世界では大人です」

「これで大人なんか!あ、そっか。【純なる子】って異世界からの転移者だもんな。そっか!ちっちゃい種族なんだな!——はじめまして、俺はラウルっていいます。失礼を言ってごめんな!」

その場に立ち止まり、柊也の手を両手で握ってブンブンと縦に振った。

人懐っこい笑顔をした大男が柊也の目の前に立つ。ルナールといい、ラウルといい、大きな人ばかりで柊也が相手の目を見て話を聞こうとすると首が痛い。この三人の中では比較的身長の低い方になるトラビスですら頭一つは柊也よりも大きく、『子供扱いされる事に早く慣れないとなぁ……』と柊也は少し悲しい気持ちになってしまった。


「九十九柊也といいます。こちらこそよろしく」


「うんうん、よろしくー。ホントちっちゃいなぁ。これで大人かって思うと、余計に可愛いなぁ」

おーよしよし!と言いだしかねない顔付きでラウルが柊也の頭をぐしゃぐしゃと撫でまくる。こちらに飛ばされてまだ一晩しか経過していないというのに、柊也はもう一生分頭を撫でられている気がした。


「ラ、ラウル……あんましトウヤ様をそうやって撫でるのは……」


ずっと黙ったまま柊也の傍で立っているルナールから、冷気が漂っている。

「俺の呪いも解いて欲しいな!んでも今やってもらうのは、なんかもったいないなぁ……」

ルナールの不機嫌さを気にする事なく、ラウルが言葉を続けた。


「あ、そうだ!俺イイコト思いついたぞ、トラビス!」


柊也からパッと離れ、トラビスの方へラウルがバタバタと移動して行った。

「いい事って?」

「広場に着いたら話すよ!」



——色々話しているうちに、四人は広場に到着した。広場は人が多く、夜の準備の為バタバタと様々な役を引き受けた人達が走り回っている。主賓を祝う言葉の書かれた横断幕が建物と建物の間に垂れ下がり、数多く花が飾られ、広場中に冷めても美味しそうな食事の並ぶテーブルが設置されていた。牛一頭を焼く用意をしている人達がいたり、出し物の練習をしているっぽい人達も居る。百歳だとはいえ、誕生日のお祝いだと言うにはやり過ぎ感のある会場の様子に、柊也が口を開けてぽかんとした。

会場となる広場でダンスをするみたいにくるんっと回り、「すごくね?俺が企画したんだぜー」と嬉しそうにラウルが言った。

「あーすごいすごい」

トラビスの、ラウルへの褒め言葉が棒読みだ。

「あ、おばさんこの肉の調理頼める?」

「あいよぉ!お帰り、トラビス。あらぁ随分と頑張って狩って来てくれたのねぇ、ありがとね」

ラウルを無視して、トラビスが獣の肉の調理を準備で駆け回っている人に頼んだ。もう完全にラウルの話は聞いておらず、この獲物達を狩ってくれたのが誰かという話をトラビスはおばちゃん達と話し始めている。

そんなトラビスを責める事無く、ラウルは標的を柊也に変えた。

「主賓のカオルばあちゃんもさ、呪われていて『自慢の尻尾が……』って、すんごくガッカリしてたからさ、呪いを解くのを誕生日のプレゼントの一つにしちゃおうか!村中のみんなが集まるし丁度良くね?一石二鳥でしょ。きっとすんごい魔法とか使って解呪するんだろ?いい見世物になると思うんだよね!」


「……え?ま、魔法?見世物?」


ラウルの言葉を聞き、柊也が慌てて彼の方に顔を向けた。

「なーんかもう一押し派手さが欲しいなって思ってたから、丁度いいでしょ」

「は、派手さ?」

「きっとみんな喜ぶぞぉ、【純なる子】による一斉解呪なんて、きっとすんごい見ものだ!」


(む、む、む、無茶振りされたぁぁぁ!僕に派手さとか微塵も無いよ?無理っす!)


その場にしゃがみ、柊也が頭を抱える。そんな彼を前にしてもラウルははしゃぐばかりで、どこまでもマイペースだった。

異世界へ飛ばされた僕が獣人彼氏に堕ちるまで

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