「この前、帰りが遅くなってしまって、あの後、晩御飯の準備をするの、大変だったんじゃないですか? ご家族の方に怒られませんでしたか?」
「あ……ああ、家族……です……か?」
「はい」
恵菜が狼狽えた表情で純を見やり、力なく唇を緩めた。
「家族って、実家の家族……の事を……言ってます?」
「え? 実家!? って事は……?」
純は一瞬ワケが分からなくなり、質問返しをしてしまう。
「西国分寺の自宅は、私の実家です。もしかして……谷岡さんが質問したのは…………元家族の事を……言ってたんですか?」
「は? 元家族!?」
素っ頓狂な声を上げている純は、慌てて口元を手で覆う。
眉尻を下げていた恵菜の面差しが、徐々に曇っていき、憂いを滲ませながらフウッとため息をついた。
「…………この前、谷岡さんに助けてもらった時の事と関係してくるんですが、実は…………」
恵菜が話を繋げようとした時、ホールスタッフが『失礼致します』と声を掛け、料理が運ばれてきた。
美味しそうな和風創作料理が運ばれ、恵菜は『わぁ……美味しそう……』と無邪気に呟き、目を細めた。
水菜とパクチーのサラダ、マグロのステーキ、旬の魚のお刺身、定番のだし巻き卵など、テーブルに彩りを添えている。
「さっそく頂きましょうか」
恵菜は、何もなかったようにニッコリ笑うと、いただきます、と小声で言いながら手を合わせた。
「では、いただきます」
純も手を合わせると、二人は再び黙ったまま食事をするのだった。
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