メインの食事を終え、デザートの抹茶ティラミスとコーヒーが運ばれてきた頃、純は、徐に口を開いた。
「すみません、料理があまりにも美味しくて、黙々と食べてしまいました。どこまで話をしましたっけ?」
純の問い掛けに、またも恵菜が、灰色に濁らせたような表情を映し出している。
「元……家族……」
戸惑いがちに言葉を零した恵菜の唇が、微かに震えていた。
「実は…………私……バツイチなんです……」
「…………え?」
恵菜は徐々に顔を俯かせ、テーブルに視線を向けたまま。
純は、恵菜の告白を聞き、静かに瞠目させていく。
「数日前、谷岡さんが助けてくれた時に一緒にいた男は…………元夫なんです…………」
「元……ダンナ……」
彼は、数日前の記憶を手繰り寄せた。
背の高い、クールな顔つきが男前で、まだ若そうな雰囲気だったのを覚えている。
だが、恵菜に手を上げようとした時点で、思い通りにいかないと、力で捩じ伏せようとする、とんでもない男だと思えた。
「離婚する時、私の両親は、即賛成したんですが…………元夫と義両親は猛反対して…………離婚するまで一年近く、話し合いをしました……」
まつ毛を伏せて、離婚した当時の話をしている彼女が、純には儚げで痛々しく見える。
(彼女の離婚の原因を、聞いていいのだろうか……?)
彼女とは、昼にファクトリーズカフェで客と店員として時々会い、挨拶を交わす程度で、そんなに親しいわけではない。
だが、恵菜自身がバツイチだという事を、純に打ち明けた。
恵菜は、もう人妻ではない。
彼の迷いを象徴しているのか、しばらくの間、唇をうっすらと開き、閉じる仕草を数度繰り返している。
突っ込んだ事を聞くのに、緊張していくのを感じた純は、一度俯き、腹を据えたように顔を上げた。
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