(困ったな……)
前髪をクシャッとかきあげ、窓の外を見る。ベランダへも出入り可能な大きな窓の向こうには綺麗に整備された庭園が広がり、花々が我が身の美を競うように咲き誇っていた。夕方が近いのか空は薄っすらとオレンジ色に染まり始めており、綺麗なグラデーションがとても美しかった。
そんな空を、『綺麗だな』と自然に思えた事がとても嬉しい。
今朝までの無気力な自分の心境にはもう戻れない程、良い方向へ心が動く。再び心に取り戻した『感情』というの存在が僕には奇跡みたいに思えた。
「…… 奇跡、か…… 」
呟いた言葉に、古代の書物の中で読んだ言葉が頭をよぎった。
「——『イレイラ』は、どうだろうか?」
「『イレイラ』ですか?とても綺麗な響きですね。意味などはあったりするのですか?」
「うん。父さん達の言葉で、『奇跡』だ」
「『奇跡』ですか。とてもお似合いだと思います」
「だろう?こんな可愛らしい子猫が召喚出来るだなんて思ってもみなかったし。それこそ、まさに奇跡的だよね。最悪グッチャグチャな泥みたいなモンスターが来ても、呼んだのはこっちだから受け入れる覚悟ではあったけど、本心としては正直嫌だったから」
「運が良かったのでしょうね、カイル様は」
「そうなのかな。もしかしたら、父さんが干渉したりとかがあったりして」
希望通り過ぎて、そんな考えが浮かんだ。
「ふむ。それはあり得ますね。神々は放任主義の様でいて、過干渉な一面もあります。カイル様の父神様はとてもお優しい方ですから、魔法陣の発動に呼応して希望に沿うようお力添えをして下さる事くらいはしていそうですよね」
「…… だよね。父さんならやりそうだなって、今なら思う。だとしたら、申し訳ないなぁ。きっと僕の最近の様子も筒抜けだったんだろうから」
無気力だった僕の姿を見て、心配をかけてしまったかもしれない。僕にとっては『父』とはいえ、相手は万人にとっては『創始の神』だ。些末な事で煩わせたくは無かった。
「カイル様に甘えられて、喜ばないお方ではございませんよ。大丈夫です」
そう言って微笑むセナの表情に、僕は心底癒された。
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