——あぁ、自分はこのまま消えるんだな。
自分の体なのに上手く動かせないし、私と同じ姿をした奴らは私を押しのけて、美味しそうな液体を私には分けてはくれない。母さんが大きくて温かい舌で私を舐めてくれるのは気持ちよかったが、段々と頭が痛くなってきた。
『痛い痛い痛い…… 』
そう思うけど体が動かない。
周りが歪んで見える。
音も聞こえない。
もうダメだ、きっとここで終わるんだ。
やっと目を開けられる様になったばかりなのに、ヒドイなって思う。
(死にたく、無いなぁ…… )
もう目を開けるのもツライ。
白いモヤがうっすらと目に入って、これで私は終わりなんだって事を知った気がした。
真っ白い空間の中で温かいものに包まれた気がする。その途端、色々な事柄が私の中へと流れ込んできた。それらが体に吸い込まれると全てが明瞭になり、これが『知識』ってものなのだと何故か簡単に理解できた。
自分が『黒猫』である事。
死にそうで、かなりの重症である事。
今まで居た場所から引き離され、違う世界へ引っ張られて来たという事……
色々な事柄を『羊の様な何かが教えてくれている』感はあったが、それが正確には何なのかはわからなかった。状況がわかっても、痛みは消えない。このままでは本当に死んでしまう。どうにかしないといけない。必死に考えても、考えた程度で覆せる様な状況ではないことまでわかってしまう。
(誰か、助けて欲しい)
訴え掛ける気持ちで瞼を開けると、自分の体と同じくらい黒い色の髪をした人と目が合った。頭には羊みたいな角があって、とても大きい体をしたその人は、私を冷たい床から抱き上げるとハンカチで体を包んでくれた。
温かな体温にホッとする。生まれて初めて、私だけの居場所を得られたみたいな安心感に心まで包まれたみたいだ。
「可愛いな、お前」
初めて『可愛い』って言われた、嬉しい。
こんなにガリガリの姿なのに。
(そうか、私は可愛いのか)
否定の感情を持つよりも先に、彼の言葉がするりと心の中に入ってきて、私の中で自信が生まれる。
「名前はあるのか?言葉が通じる様に術式は組んでいたけど、そもそもお前言葉なんて覚えてそうにないよなぁ」
(わかる、わかるよ)
でも声が出ない。弱っているからというよりは、そもそもこの体には彼と同じ系統の言葉を発する能力は備わっていないだ。それ故『どうしたら助けてもらえるだろうか?』と段々不安になる。
「大丈夫、安心していい、死なせたりはしないからな。っても、わからないか」
そう言ってくれたと思ったら、彼の手が温かさを増して光り出した。眩しくは無い。ほんのり光る優しい光は、母猫の瞳の様にほんわかとしていてとても気持ちいい。この人に任せれば大丈夫だって、心底思える。
おかげでもう、頭も痛く無いし、体も辛く無い。不思議と空腹感も消えて…… でも、急激に眠くなってきた。
眠ってしまう前になんとかお礼を言いたい。
でも言葉でなんか伝えられないから、私はかわりに彼の指へ頬ずりをしてみた。
『ありがとう』って気持ちを込めて。
(伝わっているといいなぁ…… )
瞼が完全に開かなくなり、私は心地いい眠りの中へ身を沈めた。
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