テラーノベル
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東京に入ると、渋滞はさらにひどくなり、物流系のトラックや営業車がひしめき合っている。
「結構時間がかかりそうだなー」
「先生、明日の朝は早いんですよね? だったら夕食はなしでも大丈夫ですから」
「うん。でも、デート終わりが渋滞っていうのもなぁ……」
直也の言葉を聞いて、栞は一瞬、自分の耳を疑った。
(え? 今『デート』って言った?)
そこで直也は、何かひらめいたように声を上げた。
「そうか! テイクアウトして家で食べればいいんだ!」
「え?」
「何か買ってさ、栞ちゃんの家で食べよう!」
栞は再び耳を疑った。
(先生がうちに来るの?)
「いい?」
「あ、はい…いいですけど……」
栞は慌てて自宅の中の状況を思い浮かべた。掃除は昨日済ませたばかりなので、散らかってはいないはずだ。
そう思いホッと胸をなでおろしたが、今度は新たな不安が押し寄せてきた。
(え? ご飯を食べるだけ……よね?)
父親以外の男性を部屋に入れたことのない栞は、不安で胸がざわついた。
そうこうしているうちに、車は高速を降りて一般道に入った。
二人が住む町へ近付くと、直也が口を開いた。
「この近くに、美味いカレーをテイクアウトできる店があるんだ。夕食はカレーでもいい?」
「はい」
車が店の前に着くと、直也はハザードランプを灯してから栞に確認した。
「辛いのは大丈夫?」
「あ、あんまり辛いのは……」
「じゃあ、マイルドなキーマカレーは?」
「あ、キーマカレー好きです」
「じゃあそれにしようか。ちょっと買って来くるから待ってて!」
直也は車を降りると、店の中へ入って行った。
一人になった栞は、先ほどの不安をもう一度思い返した。
自分なりにいろいろ考えを巡らせてみたが、一向に不安は解消されない。そうしているうちに、直也が袋を手に提げて車へ戻ってきた。
彼が車へ乗り込んだ瞬間、美味しそうなカレーの匂いが車内に広がる。
「いい匂い!」
「ここのは絶対美味よ! じゃあ行こうか」
そこから栞のマンションまではすぐだった。来客用駐車場に車を停めると、二人は車を降りる。
栞がカレーを持ち、巨大スナフキンや他の荷物はすべて直也が持ってくれた。
それから二人は、エレベーターへ向かった。
「五階の何号室?」
「501です」
「了解!」
エレベーターが五階に到着すると、栞が前を歩いて直也を案内した。
部屋の前まで来ると、栞は鍵を開けて中へ入った。
「どうぞ」
先に入った栞は、直也にスリッパを差し出す。
部屋に入った直也は、興味深げに部屋の中を見回していた。
栞の部屋は、細長いワンルームで、広さはよくあるワンルームの物件よりも広い。
大通りに面した壁には窓が二ヶ所あった。
手前にある窓の傍には小さなダイニングテーブルがあり、その横にはカウンター式のコンパクトなキッチンがある。ダイニングの奥には二人掛けの小さなソファが、そのさらに奥にはベッドが置かれていた。
「片付いてるねぇ」
直也はニコニコしながらスナフキンをソファに置いた。その大きなぬいぐるみは、小さなソファの三分の一を占領してしまった。
その隣に腰を下ろした直也は、大きく伸びをしながら「ふぁ~~~!」とあくびをした。
(先生、疲れてるのかな?)
そう思いつつ、栞は直也に言った。
「今、用意しますから、ちょっと待っててくださいね」
栞はパタパタとカウンターの向こうへ行くと、夕食の準備を始めた。
「慌てなくていいよ、ゆっくりで! それにしても、なんだろうなぁ、やけにこの部屋落ち着くなぁ」
「角部屋だから静かだし、窓も多くて明るいからでしょうか?」
冷蔵庫から取り出したものを電子レンジで温めながら栞が言うと、それに気づいた直也が言った。
「何もしなくていいぞぉ! カレーだけで十分だから」
「あ、はい……」
栞は返事をしながら、準備を続ける。
待っている間、直也はリビングテーブルに載っていた本を手に取った。それは、栞が好きな小説『クイーン・デューサ』の最新巻だった。綾香と友達になったきっかけの本だ。
「お? 僕もこれ、途中まで読んだよ。ひゃーっ、もう34巻まで出てるのか!」
「先生も読んでたの?」
「うん、でも12~13巻あたりまでかなー?」
「途中でやめちゃったの? 勿体ない!」
「ちょうどその頃医学部に入ったんで、忙し過ぎて読む暇がなくなっちゃったんだよ。栞ちゃんが持ってるなら借りようかな?」
「全巻揃ってますから、いつでもどうぞ」
栞はにっこり笑うと、レンジで温めたものを窓辺の小さなテーブルへ運び、その横にテイクアウトしたカレーを並べた。
「先生、準備ができたのでどうぞ」
「うん、サンキュー」
直也はソファーからゆっくりと立ち上がると、ダイニングテーブルへ向かった。
コメント
34件
嫌な感じが全くしないグイグイ直也さんですな(≖ᴗ≖ )ニヤリ
直也さんデート終わりに攻めてきたね(*/ω\*)キャー!!💕 栞ちゃんの部屋は落ち着くんだね。そりゃあ大好きな栞ちゃんの香りがするし癒やされるよね💕💕 栞ちゃんドキドキだね💗 直也さん‥今夜は唇にちゅってしちゃうのかなぁ( *´ ³`)ノ 〜♡
デートの締めはお家デート(๑•̀ㅂ•́)و✧ヨイヨイヨイ💖カレー味のチュウ(;´Д`)ハァハァ