テラーノベル
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『貴方のことが、どうしようもなく好きでした』
夜は、どうしようもなく昔を思い出す。
昔、俺の部屋の二段ベッドの下――
そこがふたりだけの「秘密基地」だった。
弟のトラゾーは、
いつも俺のあとを追いかけてきて、
気がつけば気配を感じ、
肩をくっつけてきた。
kr「トラゾー、もうちょっと向こう行ってよ」
tr「やだ。暗いし…クロノアさんの方があったかいし」
拗ねたような声。
でも、手はしっかり俺の袖を握っている。
弟のくせに、
――時々どこか抜けていて、
秘密基地の暗がりの中で
何も考えずに体を預けてくる。
そのたび、俺は兄らしくいなきゃ、
と思って距離を取ろうとするけど、
kr「…ちょっと静かに。誰か来たら見つかるから」
って囁くと、
tr「だったらもっとくっついたら大丈夫でしょ」
なんて、無防備に笑う。
トラゾーの指の背。
重なりあう手のひら。
ふとした拍子に体温が溶け、
布越しに感じる小さな震え。
多分、俺の方が先に“おかしい想い”だった。
兄だから。
いけないって分かってるけど。
それでも、
トラゾーの体温を拒めなくなる夜が
あの頃から何度もあった。
tr「ね、クロノアさん約束してくれる?このこと、絶対内緒だからね?」
kr「トラゾー…俺が守らないわけないでしょ?、」
少し強く返しつつも、
心臓は妙なリズムで跳ねる。
言葉にすればすべてが壊れそうで、
俺はひたすら「兄」でいようとした。
けど、ふいにトラゾーの
指先が俺の腕をさまよう。
息が詰まりそうな空間で、
じっと互いを見つめ合って黙る瞬間。
トラゾーの顔が、すぐそこにあって――
唇が、指先が、触れてしまいそうで…。
tr「……クロノアさん、やっぱ変な感じする」
kr「…何が?」
tr「でも、嫌じゃない」
kr「……っ、//」
わかってる。
俺も同じだなんて、
馬鹿みたいで、絶対に言えなかった。
時が経ち、部屋も広くなって、
もうベッドの下にはふたりで潜れない。
高校生になった今も、
トラゾーは相変わらず。
本当は俺自身も、
あの夜の秘密をまだ手放せていない。
なのに、兄としての仮面だけは崩せなくて――
肩が触れるたび、思い出すんだ。
あのときの汗ばんだ手も、繋いだ指も、
秘密のあの夜も、全部。
tr「クロノアさん…あのときのこと、覚えてる?」
kr「忘れるわけないでしょ、」
目を合わさずに答える。
しっかりしなきゃと、
今も昔も俺は自分を律しつづけてきた。
けど――本当は、心のどこかで望んでいる。
“もし、もう一度だけあの時に戻れたら”
あの夜言えなかった
「好き」
をちゃんと伝えてみたかった、と。
〜〜〜
“兄”である自分を守ることで、
すれ違った“好き”が、
今でも胸に残って疼く。
それでも俺は、トラゾーを守るためなら、
また同じように振る舞ってしまう気がする。
繋がりきれない指先。
幼い体温の記憶。
両片想いだった夜――
いまも、俺の全部を縛っている。
俺たちはきっと、あの夜からずっと
“どうしようもなく”両想いだった。
けれど俺は兄で、しっかりするのが役目で――
今夜もただ隣で、
誰にも言えない好きと責任を、
ごまかして過ごしている。
コメント
2件
めちゃくちゃええやん…一生見てられる( ◜▿◝ ) でも、クロノアさんの気持ちもわかるなぁ、うちも妹が居るから、責任を感じちゃうの分かるわぁ