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優子は、厳格な両親の元で育った。
公立の小学校を卒業後、中学受験で、吉祥寺にある藤倉女子中学、藤倉女子高校へ進学。
校内では優秀な成績で、学年五位以内に入っていたが、彼女の両親は『それが当たり前』という感覚なのか、勉強を頑張っても、褒められた事が一度もない。
大学は共学の東楼大学に入学、ファッションが好きだった彼女は、卒業後、大手アパレルブランドであり、彼女自身も大好きで憧れのブランド『Hearty Beauty』に就職。
『心のこもった美しさ』という意味を持つブランド名は、二十代から三十代の働く女性がターゲット。
『心の美しさと女性の美しさを解き放つ』というブランドコンセプトがある。
上質で着心地のいい服はもちろん、何よりもコンセプトに心を打たれた優子は、内定を貰った時、嬉し泣きした。
しかし両親は、大手企業に就職するのは『当然の結果』と言わんばかりの表情。
優子は褒められる事を知らないまま、社会への船出となってしまった。
広報部に配属された彼女は、当時、主任だった廉と出会い、彼の元で働く事になった。
女性社員は、容姿端麗な人が多い。
廉もまた、眉目秀麗である。
優子も、女性にしては背がスラッと高く、綺麗な顔立ちをしていたが、入社一年目の頃は、そんな先輩方に囲まれ、気後れしながら仕事をしていた。
彼女が入社四年目の頃、大手民放テレビ局から取材の依頼が入り、優子と、部長に昇進した廉が取材を受ける事になった。
毎年、Hearty Beautyは、媒体は違えど、メディアの取材を受けている。
広報部は年に一度、取材を担当する者が無作為で選出され、この年は一年間、優子が取材を担当する事になった。
先輩社員いわく、それは『入社してから、どれくらい自社ブランドに対して理解があるか、アピールできるか、自身のブランドに対する愛を伝えられるか、のテスト』らしい。
廉は、彼女のサポートとして取材に応じたが、優子は緊張していたせいで、カメラの前では自社ブランドのアピールがうまくできず、時々噛んでしまったり、引きつった笑みを浮かべたり……と散々だった。
部長の廉が、さりげなくフォローを入れ、彼のお陰で何とか乗り切れたテレビ取材。
撮影クルーを見送りした後、優子は廉に向かい合い、深々とお辞儀をした。
『部長。今日は……申し訳ございませんでした……』
優子は、失態続きと悔しさで顔が歪みそうになりながらも、上司に見られないように、一礼をしたまま固まってしまう。
『…………岡崎。顔を上げようか』
廉の穏やかな声音が、却って恐怖を感じてしまう彼女だが、おずおずと身体を起こして上司を見上げた。
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