テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『君は緊張していて、俺が思うに、岡崎の伝えたい言葉の半分も言えてなかったと思う』
彼は真剣な表情から、フッと唇を緩めながら、微かに笑みを零した。
『だが、岡崎のHearty Beautyに対する思いと愛は、ぎこちなさはあったものの、君自身から溢れていた、と俺は思ってる』
(これって…………褒められているって事……?)
優子は、ポカンとしながら上司の耳に傾けた。
『俺は、何度か部下たちのサポートで取材に応じた事があるが、岡崎が一番“思いと愛”が伝わっていた。これからも、自分はHearty Beautyが好きだ、という気持ちを忘れずに、仕事に邁進してくれよ』
『はい。ありがとうございます……』
初めてもらった褒め言葉に、彼女は弾かれたように一礼すると、廉は優子の肩をポンッと軽く叩き、社屋へ入っていく。
(そうだ。私は、ここの服が大好きだから、入社したんだよね……)
上司の言葉で、何かが吹っ切れたのか、優子は軽い足取りで彼の後に続いた。
この年は、ファッション誌やテレビ局など、取材が比較的多かったせいか、彼女と廉がメディアの取材に応じていた。
二人が受けた取材は、数回ほどあったが、年度末に取材を受ける頃には、廉のサポートも必要ないほど、優子は堂々と自社ブランドの良さ、彼女自身のブランド愛をアピールできるようになっていた。
『岡崎のアピール力はすごいな。俺は、ただの付き添い役だったし』
成長した部下を感慨深げに見ながら、廉はどこか寂しさを含ませた笑顔を浮かべている。
『新年度になれば……新入社員も入ってくるだろうし、今後は岡崎が新人をサポートする立場になるだろう。大変だが…………頑張ってくれよ』
温和な眼差しを向けられた優子は、ありがとうございます、と返すと、廉はまだ彼女を見つめたまま。
『岡崎』
『はい』
上司は、優子を呼ぶが、彼は、何かを言いあぐねているのか、唇を微かに震わせている。
『…………いや、何でもない。お疲れ』
優子は、廉が何を言い掛けていたのか気になったが、彼は、彼女の肩をポン、と手を置くと、立ち去っていった。
新年度の初日。
いつも通りに出勤した優子は、社屋の一階にある掲示板の前に、人だかりができているのを見つけた。
(今日は賑やかだな……)
彼女も、吸い込まれるように掲示板へ向かうと、少しずつ他の社員の話し声が耳に入ってくる。
『…………すごい。異例の昇進だって』
『…………部長、確かに仕事はできる人だったもんねぇ……』
その直後に聞こえた話し声に、優子の歩みはピタリと止まり、瞳が大きく見開かれた。