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マッドハッター 〜 白幻の森にて 〜
三体のツリーテイルの後ろから更に二体のツリーテイルが姿を現した。先ほどの鳴き声で呼び寄せられたのか、向こうはやる気満々の様子だった。
だが、こちらにはあまり時間がない。早急に、と言ったもののこの数を押し切れるか。
私が作戦を考えていると、手の平に乗っていたノームがぴょんぴょん跳ねていた。まるで、自分に任せろと言いたげに。
「ノムムっ!」
「…そうだな。ここは一つお前に任せて見ようか。」
私は、ノームを空高く投げる。すると、クロウ達は何かを察して、その場から少し離れる。投げられたノームから召喚した時と同じ黄金色の光が放たれる。私は片手を上げて、手の平をその光へ向けた。
「深き源流へと我が意識を注ぎ込み、闇の糸で結ばれし魔力を解き放つ。…出よ、ゴーレム!」
詠唱の後、黄金色の輝きが消えた。それと同時に隕石でも落ちてきたのかと疑いたくなるような大きな何かが雪の地面に衝突し、森中に響いた。ひらひらと舞う雪と土煙から現れたのは岩に覆われた巨人、ゴーレムになったノームだった。
「ノムムぅぅー!!!」
無数の岩が繋がった両腕を高く上げ、雄叫びを上げる。気合の入った雄叫びでゴーレムの周りに衝撃波が生じ、その威力にツリーテイルだけでなく、私達まで吹き飛ばされそうになった。
「っ、これが…<強化の術>。」
レイスが飛ばされそうになっている帽子を押さえながら呟いた。
<強化の術>とは、ノームのように特定の魔物に魔力を注ぐと、自身の力が飛躍的に飛び抜けて強化される術だ。ノームは土の魔物。よって、このように<強化の術>を使うと、一時的にだが、<ゴーレム>になれるのだ。
「ノムぅー!!」
ゴーレムとなったノームは、両手で地面を這うように走り出しては、目の前にいるツリーテイルに岩の拳を打ち付けた。もろに顔面に拳を食らったツリーテイルは、そのまま倒れて痙攣した。まるで、大きなかなづちで割られたスイカのようだった。
ドスン! ドスン!
巨人が暴れているのかと思うくらい攻撃を続けるノーム。その様子を見て、びくびくと怯えるシモドリ。
私とクロウ達は、ゆっくり歩きながら、もみの木に止まってるシモドリに近づいた。
「やあ、ここからの景色は最高かい?」
「…。」
会話をする気はないらしい。スパイキー達には悪いが、少し乱暴に拘束させてもらうしかない。
私は指をぱちんと鳴らすと、サラマンダーを持っているクロウと、レイス、ヴァンプがシモドリを囲むように周りを飛び始めた。
「…!」
「聞きたいことが山程ある。そのためにまずは拘束させてもら、う…。」
私は突然の目眩に膝をついてしゃがんでしまった。魔力を消費しすぎたのか、体の力が抜けて立てなくなってしまった。クロウがそんな私の様子を見て視線をシモドリから離した時。シモドリは足元から氷を生やし、クロウとサラマンダーに向けて氷を伸ばした。
「しまった!?」
片翼を凍らされてしまったクロウはサラマンダーを持ったまま、ひらひらと雪の上に落ちた。その隙を狙って、シモドリは森の奥へと飛んでいった。
「っ、逃がすな!」
私は、ヴァンプとレイスに追いかけるように指を差すと、二匹はすぐにシモドリを追いかけて行った。スパイキー達は自分たちも追いかけるべきか悩んでいた。
「お前達も行け、スパイキー・スパイク!」
「で、でも。」
「お前達の問題だ。かたをつけろ!」
スパイキー達は頷くと、レイスとヴァンプに続いて行ってしまった。私は目眩が少し治まると、凍ったクロウの翼を魔法で溶かす。サラマンダーも少量の炎を吹いて、手伝ってくれた。
「申し訳ありません、我が主。」
「いやいい。私はしばらく動けそうにない…、レイス達の連絡を、ま、つ…。」
とうとう体全体に力が入らなくなり、そのまま倒れてしまった私。冷たい雪の上に倒れた、と思っていたが実際はごつごつとした岩場だった。
「ノム…。」
どうやら、周りのツリーテイル達を倒し終えたらしいノームが受け止めてくれたようだ。ノームは赤子を抱くように私を持ってくれた。力加減を間違えれば岩に押しつぶされそうだ。
「クロウ…、後は、まかせ、た。」
クロウの頭を一撫でして、意識を手放した。
スパイキー・スパイク 〜 白幻の森にて 〜
僕たちと、レイス、ヴァンプは森の奥へと逃げるシモドリを追いかけていた。レイス達は飛行能力を駆使して、僕たちはアクロバティックな動きを利用して木から木へとジャンプしてシモドリを追いかける。
「ねぇ! 待ってよ!」
後ろからシモドリに話しかけるが、こちらを振り向きもしない。あの子は本当に、僕たちを本気で殺そうとしたのだろうか?
何かが引っかかる。これは、問いたださなければならない。
「…ヴァンプ、このままじゃ逃げられる。」
「でも、コレが精一杯! どうしろと!?」
レイスはスピードを落として、ヴァンプの背後に回った。何をするつもりだろう?
「ほら…、飛んでいけっ!!」
「へ? ぴやあああああああああああっ!?」
レイスは両手で竜巻を作り、ヴァンプに浴びせた。ヴァンプはぐるぐると回転し、変な悲鳴を上げながらシモドリに向かって飛んでいった。
「「ピャっ!!??」」
ヴァンプとシモドリは衝突し、そのまま二匹は雪の上に落下した。
「…おっと、威力が強すぎたかな?」
僕たちは急いで、ヴァンプとシモドリの側に近寄った。ヴァンプは完全に目を回してダウンしていた。一方、シモドリは雪の上に翼を広げて伸びているようだった。
「…さぁ、観念してもらうよ。」
レイスと僕たちは、シモドリに近づく。ヴァンプとぶつかった衝撃が強かったのか、何やら弱っているように見えた。
「ピー…、ピー…。」
呼吸がおかしい。レイスを見ると、彼はシモドリの体にそっと触れると何かを悟ったように黙り込んだ。
「レイス? シモドリは、大丈夫だよね?」
「…やはり。」
「レイス??」
「スパイキー・スパイク、よく聞いて。…シモドリは、この子はもう死期が近い。」
死期。レイスからそう聞いて、シモドリが言っていたことを思い出す。「産まれて数日しか生きられない。」確か、そう言っていた。
「そんな…。寒いところ、今すぐ寒いところに行かなくちゃ!」
僕たちはシモドリを両手で抱えて森の奥へと走り出すが、レイスが立ちはだかる。首を振り、やめるように諭してきた。それでも、僕たちは、歩くのをやめなかった。
「スパイキー・スパイク…。」
「助けたいんだ! 確かにあんな事をされたけど、それでも、助けたいんだ。僕たちの<トモダチ>だから!」
「(…すぱいきー、すぱい、く。)」
「!」
弱々しい声が腕の中から聞こえた。けど、レイスには聞こえていないらしい。どうして僕だけに聞こえるのかはわからないが、僕たちはこの弱々しい声とその存在に耳を傾ける。
「シモドリくん…。」
「(…最期のお願い聞いてくれる?)」
「いいよ、僕たちにできることならなんでも言って。」
「(いい、の? ぼく、君たちに、ひどいこと、したのに…。)」
「僕たちには、ハッターのように君を懲らしめる力がない。けど、僕たちは君を許すよ。」
シモドリの頭を優しく撫でる。僕たちの腕の中で今小さな命の灯火が消えようとしている。例え、酷いことをしてきた存在でも僕たちは許されるべきだと思っている。こんなことをハッターの前で言ったら、「甘い」と言われてしまうかもしれないけど。
「(…やさしいね、君たち、は…。)」
「よく言われるよ…。それで、お願いって何?」
「(…、たい、ようを、見たいんだ。)」
すっかり暗くなっていた空がだんだんと明るくなっていた。夜明けは近い。