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自分の故郷である村が炎に包まれたと知った時、真っ先に頭の中に思い浮かんだのはクロノアさんのことだった。
親に頼めば、車で1時間もかからずにあの村に着くことができたはずだった。 自分だって、泣きそうなくらいだった。ただテレビのニュースで彼の名前が出ないことを願っていたが、耐えきれなくなり親に村に行こうと言った。
『───もう、あの村には何もないよ』
父がそう言った。
まだわからないじゃんと怒鳴った。
『───もう、行っても意味はないのよ』
母がそう言った。
まだテレビのニュースで名前は上がっていないと諭した。
『───”生存者確認できず”ってニュースで言われてるんだよ』
両親がそう言った。
口からは何の言葉も出なかった。
あの時、絶望に満ちていることもあったが、子供だったこともあってちゃんと親に反論できなかった。
───”行方不明者1人の文字が友達かもしれない”と、一言反論すればよかった。
『───クロノア、さん』
だから、またその名前を見ることになるとは思わなかった。何回も何回もその名前を繰り返した。
───中学で話題になったのは、ある村での行方不明者1人が見つかったと言うテレビのニュース。
嬉しさから舞い上がり、中学では”すごい”と大きく話題になったため、親に話せばきっとあの子のところへ連れて行ってくれると思った。
『───だから行こうよ! クロノアさんが生きてるんだよ!!』
興奮気味に話す自分とは反対に、相手は渋い顔をこちらに向けた。小学生の時より少し老けた相手の顔は、どうも経験豊富そうで何もかもを知ってそうな長老のように思えた。
だからこそ、その言葉が酷く胸にささった。
『───生き残ったから、あの子は”イクジナシ”って言われてるの』
“イクジナシ”
何かの呪文のように思えたその言葉は、意気地なしのことを言っているのだと分かった。
“イクジナシ”───意気地なし───とは、危険を避けて慎重に行動する様子を表す言葉。勇気がなく、やるべきことをやらない人なんだと。
それでいて、”命知らず”の対義語の1つ。
『だから、やめときな。あの子は、”普通じゃないから”』
なぜ、彼だけ?あの村の生き残りは、本当は彼と自分だった。
街中で彼とすれ違うたび、廊下で彼とすれ違うたび、罪悪感で胸が締め付けられた。彼だけなぜ”普通じゃないから”と言われなければならなかったの?彼だけ、はぶかれなければならなかったの?
『───友達、だから……』
きっと、自分が悪かった。あの子を地獄へ突き落としたのは、自分だった。謝りたくて謝りたくて、でも、謝る勇気が出なかった。
だから、自分は彼の反対の人になればいいと思った。
彼と反対の人───それでいて、彼と同じ”普通じゃない”人。
そうすれば、少しでも彼に近づけて、少しでも報われる気がしたから。
『───友達だから、助けなきゃならないの! 母さんと父さんの言うこと、聞かないから!!』
そういう立場を───”イノチシラズ”という。
……………
「───……ごめん。本当はもっと早く謝るべきだった」
だから、と言葉を続けようとしたところで、相手が叫んだ。
「───いい! ……いいの。……こういうのってきっと怒ったほうがいいんでしょ?」
震える声でそう言うのは、クロノアさんだった。
「けど、ごめん。怒れない。……ぺいんとも辛いのは知ってたから。きっとそういう事情があるんだなって分かってた」
だから、聞きたくない。と、彼は耳を塞ぐような仕草をして、涙目になりながらこちらを見据えた。
「───謝罪は、聞きたくない」