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第8話:揺らぐ心
石畳の広場は夕日で赤く染まっていた。
人々が集まり、またセリオンの声が響く。
「市民よ、安心しろ! ヴィランの血を引く者に惑わされるな!」
水色の髪を揺らし、鮮やかなマントを翻す。
ヒカル=セリオンの背は高く、筋肉質の体を誇らしげに構えていた。
その姿は、まさしく「絵に描いたようなヒーロー」だった。
群衆は拍手を送る。しかし、その中でわずかな声が漏れた。
「……でも、この前はヴェルノが子どもを助けていたように見えた」
「市場でも、金を払ってたって人がいたよな」
小さなささやきは、波紋のように広がる。
誰も大きな声では言わない。だが「セリオンの言葉は絶対」ではなくなり始めていた。
セリオンの笑顔は崩れなかった。
だが、灰色の瞳を持つ青年――ヴェルノが静かに立っているのを視界の端にとらえたとき、その唇がかすかに歪む。
「……ヴィランの末裔に騙されるとは、愚かだな」
声は鋭く、群衆に突き刺さる。
「俺がいなければ、あの血筋が何をするか分からないんだぞ!」
威圧的な言葉に、再び人々は押し黙った。
ヴェルノは沈黙のまま、灰色の瞳でセリオンを見返していた。
その視線は強くも弱くもなく、ただ真実を知っている者の静けさを湛えていた。
グレン=タチバナは人混みの後ろで腕を組み、黙って二人を見ていた。
灰混じりの髪、日に焼けた顔。
「さて……どっちが本物か、そろそろ分かってくるはずだ」
低い声が、夕暮れにかき消されるように呟かれた。
セリオンの苛立ちは隠しきれず、その水色の瞳が冷たく光った。
群衆の心は揺れ始めている――そのことを、彼自身が一番よく知っていた。