テラーノベル
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「ちょっと!!」
建物と拓人に挟まれ、外壁に手を突かれて囲い込まれた女は、目を吊り上げながら唇を『への字』にさせている。
人は見かけによらない、というのは、どうやらその通りらしい。
「あんたさぁ…………いい歳して万引きしようとしてたの?」
拓人は、女を揶揄うように唇を歪めさせると、綺麗な表情にグイっと顔を近付けた。
キリっとした瞳が見開かれ、頬が少し紅潮したようにも見える。
だが、艶めいた唇から放たれる言葉は、彼に対する文句だ。
「だから何だっていうの? アンタに関係ないでしょ!?」
綺麗な顔立ちの女が焦燥感を漂わせている姿は、拓人にとって面白くて仕方がない。
(へぇ。そうきたか。なら、俺の記憶の確認でもしてみるか……)
彼は、唇が触れ合いそうな距離まで顔を寄せると、女の顎を掴み、上を向けさせた。
「俺、あんたの事、見た事あるなって思ってたんだけどさ。一昨年の夏くらいか? 向陽商会のサイトに、社員の男に誹謗中傷の書き込みをして、逮捕された女だろ?」
卑しく唇を歪めながら、不適な笑みを浮かばせると、女は次第に目を見開き、狼狽した。
「っ……!」
まさか、あの事件を覚えている人がいるなんて、思いもしなかったのだろう。
女は絶句し、唇をうっすらと開かせたまま。
「ほぉ。やっぱりそうか」
「…………」
顔を背けた美女に、拓人は囲い込んだまま、ほくそ笑む。
「テレビで逮捕された様子を見ててさ、綺麗な女だよなぁ、って思ったけど、薄くメイクしても、やっぱ美人だな。で、いつシャバに出てきた?」
「…………今日よ。何か文句ある!?」
「はっ? 今日出所したのか! で、金がなくて万引きかっ」
「…………うるさい男ねっ! 犯罪者には、落ちぶれた未来しかないし! だったら、また警察に捕まった方がマシ!」
クククッと堪えた笑いを零しながらも、薄暗い路地裏に浮かぶ女の顔立ちを見て、拓人の劣情の炎が灯された。
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