テラーノベル
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その夜、颯介は都内の高級レストランで、一人の女性と向かい合っていた。
女性は三十代前半。身体のラインを美しく際立たせるワンピースをまとった、色白の美人だ。
「改まって話があるって言ってたけど……何の話?」
軽く笑みを浮かべて尋ねる女性に、颯介は静かに告げた。
「うん。俺たち、今日で終わりにしないか?」
その言葉を聞いた瞬間、女性は大きく目を見開いた。
「えっ、どうして? 私たち、今までうまくいってたわよね」
「…………」
「あなたが私生活に踏み込まれるのを嫌うから、私はずっと我慢してたわ。でも、それでうまくいくならいいと思ってた。ねえ、どうして? 私の何がいけなかったの?」
潤んだ瞳で、女性は必死に訴えた。しかし颯介は無表情のまま、淡々と口を開いた。
「別に、俺たち付き合ってたわけじゃないだろう?」
「なにそれ、ひどいっ! 肉体関係があったら、付き合ってるのと同じでしょ!」
「いや……俺は誰とも付き合わないって、最初に言ったよね?」
「それは、そうだけど……」
女性は言葉に詰まった。
たしかに颯介は、最初から『誰とも付き合うつもりはない』と宣言していた。
それでも彼のそばにいたくて、女性の方からこう願い出たのだ。
『セフレでもいい。恋人じゃなくていいから、たまに会って一緒にいたいの』
だが、それは本心ではなかった。
本当は、颯介の妻の座を狙っていた。だが、そのためにはそう言うしかなかったのだ。
そこで、颯介が静かに続ける。
「俺たちが会うのは三ヶ月ぶりだ。その三ヶ月の間、何もなかったのは事実だ」
「それは、あなたが連絡をくれなかったからでしょう!」
女性は訴えるように叫び、唇をきゅっと噛んだ。たいていの男なら、この表情だけで折れてしまうだろう。
だが、颯介は揺らぐことなく淡々と返した。
「恋人でもないのに連絡するのはおかしいだろう? それに、君は先月、投資家主催の出会い系パーティーに参加していたそうじゃないか」
その言葉に、女性はピクリと肩を震わせた。
「そ、それは……」
「まあいい。今後君は自由なんだから、せいぜい楽しむといい」
そう言い放つと、颯介は会計伝票を手に立ち上がった。そして、一度も振り返ることなく、店の出口へ向かう。
その背中を見つめながら、女性は力なく肩を落とした。
店を出た颯介は、「ふーっ」と息を吐いた。
今日はランチ、ティータイム、そして先ほどのディナーと、三人の女性と立て続けに会っていた。
颯介には恋人はいなかったが、大人の関係の女性が三人いた。
もちろん、最初から『恋人を作るつもりはない』と宣言していたため、すべて同意の上だ。
その代わり、彼女たちが望むものは何でも与えてきた。
ハイブランドのジュエリーやバッグ、上質な服、豪華なホテルディナー、海外旅行……。彼女たちが求めるものは、ほとんど叶えてきたつもりだ。
だから、彼との関係に不満を持つ女性は一人もいなかった。
それでも、なぜ突然彼女たちとの関係を断とうと思ったのか。颯介自身にも、はっきりとした理由は分からない。
ただ、一つだけ確かなことがあった。
凛との出会いが、これまでの颯介の価値観を大きく揺さぶったという事実だ。彼女と関わるうちに、颯介の心の奥で、何かが静かに変わり始めていた。
だからこそ、今日、すべての女性との関係を断ち切ろうと決意したのだ。
夜の街を歩きながら、颯介はふっと笑みをこぼした。
(いよいよ俺も、年貢の納め時か……)
そう思った瞬間、ポケットの携帯が鳴った。画面を見ると、凛からの着信だった。
彼女から直接電話が来るのは初めてだったので、颯介はすぐに電話に出た。
「もしもし?」
「あ、真壁さんですか? 二階堂です。すみません、こんな時間に。今、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。何かあった?」
「実は、ちょっとお話したいことがありまして……。明日の夕方にでもお時間いただけませんか?」
深刻な声色に、颯介はすぐに何かあったと察した。
「わかった。じゃあ、明日の六時に、豪徳寺駅構内のカフェでいい?」
凛は驚いたように声を上げた。
「わざわざうちの近くじゃなくても……真壁さんの事務所がある新宿で大丈夫ですけど」
「車で移動するから大丈夫だよ」
「すみません……では、明日の夕方六時に」
「うん、では、明日ね!」
電話を切ると、颯介は歩きながら考え込む。
(いったい、何があったんだ?)
凛の話が気になる一方で、自分がこんなにも一人の女性のことを気にしていることに、戸惑いを覚えていた。
颯介はふいに立ち止まり、月明かりに照らされた夜空を見上げた。
「今夜は満月か……」
ぽつりとつぶやいたあと、ふっと微笑む。
それから、車を停めてある駐車場へ向かって、ゆっくりと歩き始めた。
その頃、沢渡奈美は自宅マンションで落ち着かない様子だった。
なぜなら、凛の机に仕掛けていたレコーダー付きボールペンが見当たらないのだ。
(まさか、バレた?)
しかし奈美はすぐに首を振った。
(ううん、そんなはずない。それに、不特定多数が出入りする場所だもの。隠しカメラでもない限り、私が仕掛けたなんて分かるわけないわ)
そう自分に言い聞かせると、奈美はにやりと笑った。
だが、携帯の画面を見た途端、表情が曇る。
(GPSの方はぷっつり途絶えちゃったし、高いお金を出して買った住宅地図にも『真壁』の家は載ってない……これじゃあ何の手も打てないじゃないの! んもうっ!」
颯介と名刺交換をしていない奈美には、彼の事務所の住所すら分からない。そのため、完全に手詰まりの状態だった。
苛立ちを抑えきれず、奈美はそばにあったクッションをつかむと、勢いよく壁に投げつけた。
コメント
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颯介さん 自分でもよくわからないうちに身辺整理をしたのね やはり凛ちゃんに知らないうちに惹かれている証拠ね
3人も⁉️😳やっぱりモテる人ですね〜 盗聴器も他の誰かかもと思ったのはこういうことか🤔 凛ちゃんとの出会いできちんと身辺は綺麗にしましょうね ところでナミをどう追い詰めて行くか? よーく相談してね
颯介さんモテモテだけどうまく別れないと奈美のように執着からストーカーされるよ😅 身辺整理をして凛ちゃんへとまっしぐらかな( *´艸`)フフフ♡ あとは奈美の件をうまく対処しなきゃだね💪