テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
芙月みひろ
#裏切り
537
目が覚めたとき、
胸の奥に残っていた熱がまだ消えていなかった。
スマホを開く。
昨夜のメッセージが静かに光る。
『その時間、空けておきます。
先輩とお話しできるの、嬉しいです。』
指先が画面の上で止まる。
呼吸が少しだけ浅くなる。
短く打ち込む。
『おはようございます。
今日、よろしくお願いします。』
送信。
すぐに既読がつく。
『おはようございます。
こちらこそ、よろしくお願いします。
……少し緊張してます。』
胸の奥がわずかに揺れた。
その揺れは、すぐに静かに広がっていく。
『大丈夫ですよ。
話せるの、嬉しいです。』
送信。
鏡の前に立つ。
服を選ぶ手が少しだけ迷う。
普段なら気にしない細かな皺が、
今日はなぜか目に留まった。
スマホが震く。
『先輩、無理のない時間で大丈夫です。
どこでも合わせます。』
画面を見つめたまま、
指先がわずかに強くスマホを握った。
『ありがとうございます。
じゃあ、〇時ごろでどうですか。』
送信。
『はい。
大丈夫です。
その時間、向かいます。』
短い文なのに、
胸の奥の温度が少しだけ変わった。
窓の外の光が強くなる。
その光の中で、
今日という日が静かに形を持っていく。
スマホを手に取る。
入力欄を開き、
一度だけ指が止まる。
言葉を増やす必要はなかった。
でも、何も言わないのも違った。
短く打ち込む。
『気をつけて来てください。』
送信。
画面の光が静かに揺れた。
その光を見つめながら、
胸の奥の距離が確かに縮まっていく。