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「九條さん、長時間お待たせしてしまい、すみません。どうぞお掛け下さい」
院長先生に促され、瑠衣は丸椅子に腰を下ろすと、侑が彼女のすぐ後ろに立っているのを見た看護師が椅子を用意し、彼に座るように呼び掛けた。
(さっきまで穏やかな表情で私の近況を聞いていた院長先生の表情が、どこか冷静を装っているように見えるのは気のせい……?)
朧気に彼女が考えていると、院長がゆっくりと口を開いた。
「九條さん、子宮頸がんの疑いがあります」
「…………え?」
「それも、他の組織に広がっている浸潤がんの疑いがあります」
院長先生は、エコー検査の画像を瑠衣と侑に見せ、がんの疑いがある部分に印を付ける。
「…………子宮頸がん…………浸潤……がん……」
瑠衣は愕然としながら呟き、隣に座っている侑からは息を呑むような声音が聞こえたような気がした。
「これから尽天堂大学病院への紹介状を書きますので、早めに精密検査を受けて治療して下さい。できれば今日、これから行って欲しいほど病状が進行していると思われます」
(…………昨年の十一月に検査を受けた時、特に異常は見られなかったって言ってたけど……しばらく通院しなかった間にそんな状態になってたなんて……。私…………死ぬの?)
人生で初めて『死』に直面している状態に、瑠衣の瞳は見開かれ、身体が強張り始めた。
「尽天堂大学病院……」
院長先生の言葉に、侑が反応してボソっと言葉を零す。
「当院が提携している大きな病院が尽天堂大学病院なのですが、別の病院がよろしいですか?」
「あ……いや、尽天堂大学病院に、医師の友人が勤務しているもので……」
「そうでしたか。でしたら、本日の検査結果と一緒に紹介状をお渡ししますので、そのまま尽天堂大学病院へ向かって下さい。あちらの先生には、私から連絡しておきます」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「院長先生……ありがとうございます……」
会釈をした後に診察室を退出し、二人はガランとした待合室へ戻ると、侑はスマホを取り出し、外に出て行った。
恐らく、友人の医師に連絡を取っているのだろう。
一人になった瑠衣は、この状況に夢でも見ているのではないか、などと思ってしまう。
妊娠、そして子宮頸がん。それも他の組織に広がっている浸潤がん。
「う……そ…………わっ……私……」
この日の午前中、立て続けに衝撃的な事実を知った瑠衣は、心と身体がバラバラに引き裂かれるような思いで、崩れ落ちるようにソファーへ腰を下ろした。
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