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掃除と洗濯は結婚する以前よりお世話になっていたハウスキーパーさんに任せるから大丈夫と言われた。

私が大学に行っている間に来ることになっているキーパーさんの仕事ぶりは完璧で、部屋は埃ひとつなく綺麗で、服もアイロンまでかけてくれていた。

私なんかがやるより、ずっと良かった。

ならせめて食事くらいはと思ったけれど、多忙のため食事は不規則になるというので遠慮された。

たしかに、学内にいる時は学食を利用すればいいし、それ以外ではメディアの取材とか収録の都合で外食する機会がある。

帰宅もほぼ毎日遅いし、帰宅早々、部屋に籠って仕事をすることもある。

決まった時間に落ち着いて食事……なんて、ほぼ無理といえた。

ほぼ、私が一方的に援助を受けて厄介になっているだけだった。

私も、夜は予習復習と来年度入学を目指しての受験勉強をしなければならないので、ほぼ部屋にこもったまま、聡一朗さんと顔を合わずに就寝してしまうこともある。

だから顔を合わせると言ったら朝くらいだけれども、挨拶をしてとつとつと会話をするくらいで、話し相手にもなれていない。

私の役割って、なんなんだろう。

私なんかがいて、聡一朗さんのなんの足しになるんだろう。

けれども、聡一朗さんは変わらず優しく、なにか不便を感じていないか、大学の生活はどうか、などと細やかに気遣ってくれる。

とてもありがたい。

本当に恵まれていると思う。

それだけに、私の胸にはつかえているものがある。

もっと聡一朗さんのお役に立ちたい。

妻として、聡一朗さんに尽くしたいのに――。

「ねえね、君ってあの藤沢教授の奥さんって、ほんと?」

そう唐突に訊かれたのは、学食で昼食を食べている時だった。

私くらいの年齢の正規の男子学生さんで、取っている講義で一緒になっている人だ。

聡一朗さんとのことは、学生は知らないはずだ。

別の教授さんから聞いたのだろうか? ――と巡らせて、思い出したのは紗英子さんだ。

私たちの周囲が騒がしくなるように、彼女が少しずつ漏らしているのかもしれない……。

「え? 私が? 違います…!」

驚きつつ、断固否定。

唐突に訊かれたにしては我ながらうまい返しだと思う。

もうひとつ演出して、

「いったい誰がそんなことを?」

戸惑う振りをしつつ、噂の出所を確認しようとした。

「誰っていうか、みんな言っているんだよ。今一番ホットな噂になっているよ。まさかそんなことはないって、半信半疑の意見がほとんどだけれどね。だって先生も君も、指輪とかしてないし」

と、ちらと私の指を見る。

ひぇえ、みんな私だけでなく聡一朗さんの指までチェックしているんだな。

結婚指輪は店舗に並んでいるもので間に合わせた。

けれども、大学に行く時は外していこうと聡一朗さんが言った。

きっと、噂が広まって、世間が騒がしくなるのが嫌だったからだろう。

私は、妻らしいことを一切していないから、せめて結婚指輪ぐらい付けて自覚したかったな、と思っていたけれど……やっぱりしていなくてよかった。

胸を撫で下ろしている私をよそに、男子学生は軽佻な口調で話し続けた。

「あーよかった、人妻だったら誘えないなと思ってたんだ。じゃ担当直入に。ね、今度ご飯どう?」

「え?」

「ぶっちゃけ、デートのお誘いだよ。前から君のことかわいいと思ってて、仲良くなりたかったんだ」

わ、すごいストレート。

これが大学生ってやつなんだなぁ、と妙に感心するけど、もちろんきっぱりと断らねば。

「ごめんなさい、勉強で忙しいので」

と、食べかけの食器を片付けて立ち去ろうとする。

けれども男子学生は引き下がらない。廊下まで私についてきた。

「ね、いいだろ? お茶だけでもさ、おごるからさ」

「ごめんなさい、うれしいですけれどお受けするわけには」

「じゃ、なんでもいいからアカウント教えてよ」

「っ……!」

諦めないどころか、私の手を握ってきた。

びくりとなって思わず立ち止まる私の視界に、不意に背の高い男性の姿が入った。

目を見張る。

聡一朗さんが私たちを見ていたから。

男子学生は気付いていないようで、なおも私になにか言ってくる。

けど、耳に入ってこなかった。

聡一朗さんと見つめ合ったまま、時が止まったように感じていた。

私は目で訴えていた。

助けてください。

触れられたくない、聡一朗さん以外の人からは誰も。

だって私はあなたの――。

聡一朗さんがこちらに歩み寄ってきて、男子学生の肩と掴んだ。

君という鍵を得て、世界はふたたび色づきはじめる〜冷淡なエリート教授は契約妻への熱愛を抑えられない〜

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