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時に、生ける者の世界、死者の世界、そして魔の者の世界が繋がる瞬間がある。
普段はお互いに干渉することはないのだが、想いの強さや未練、人知の及ばぬ者の力に影響を受けるらしい。
今回の出来事はどうやら前者だ。
俺の想いの強さによるものだ。
「顔と名前を盗られてしまうからね。」
オヤシロの言うことには、魔の者の世界では人の体を乗っ取ろうとする輩もいるみたいだ。
そのため、与えられたこの部屋でしか食事はしてはいけないし、お面も外してはいけないらしい。
(璃子さんが、神様の花嫁。)
その言葉が頭を離れない。
もしそうなのであれば、最後に会いたい。
何故いなくなったのか、俺以外の記憶から何故消えたのか。
「失礼します!」
そう言って入ってきたのは人間の女の子の姿に犬の耳と尻尾をした巫女のコロだ。
「藍さん、困っていることはないですか?」
「はい、お陰様で。」
「それはよかった。それとオヤシロ様からお使いを頼まれましたので、一緒に行きましょう。」
「お使い、ですか?」
「はい!1日お部屋の中というのも気分が晴れないから、ということですので。」
「•••わかりました。」
そうしてコロと一緒に部屋から出る。
外は晴れていた。
中庭の白い砂は日差しを照り返して眩しく感じる。
「藍さん、こっちですよ。」
コロは少し先に居た。少し早足で後を追いかけた。
こちらの世界は自然も建物も全て昔のままだ。
大鳥居をくぐるとわらわらと小さい子が群がってきた。
「おはよう。」「おはよー。」「おはよ。」
「オヤシロ様のおつかい?」「おつかい?」
「君はみならい?」「みならいだー。」
一斉に話し始める。
よく見ると体や顔の一部が欠損していたり、怪我を負っていたり様々だ。
「そうですよ。なので通してくださいね。」
コロがそう言うと小さい子達は道を空ける。
「しっぽないね。」「まだまだみならいさんだねー。」
コロの後ろを付いていく俺の姿を見つめてくる。
「この子達は行き場のない小さい子どもの魂なんです。死者の世界に行けるように、オヤシロ様がここに住まわせているんです。」
「行き場がないって、どういうことですか?」
「天寿を全うするまでに亡くなった、もしくは生まれる前に殺された、ということですね。」
「•••。」
無邪気な笑顔ではあるが、どこか失っているのはそういうことか。
「みならい、しっかりな。」「みならい、おつかいしないと。」「はやくはやく。」
そうしてコロも小さい子達に手を引かれ、一緒に目的の場所まで移動した。
目的の場所に近づくにつれ、何故か言い争う声がする。
「あぁ、またですか。」
そう言ってコロが苦笑いをする。
「だーかーら!コロちゃんが取りに来るんだから、お前はすっこんでろ!猫又が!」
「ついでだからいいだろうが!」
そこには狼の耳と尻尾のある店主と猫の耳と尻尾のあるコロと同じ巫女服を着た猫又がいた。
一緒に来ていた小さい子達がプルプルと震えだす。
「あの、ガルさん、ミケさん、やめてください。」
「コロちゃん•••てめぇ、誰だ。」
店主から睨まれている。
「こいつはオヤシロ様の見習いだ、わきまえろ。わかったなら早くよこせ。」
「ミケさん!すみません、ガルさん。」
「いいんだよ、コロちゃんも大変だな。お前さんもオヤシロ様の見習いだったんだな。すまなかった。」
そう言って店主はコロに物を渡すと俺の方を見てきた。
「見習いにしては、お前さんは耳も尻尾もないんだな?もしや元人間か?それならお前さんがオヤシロ様になるまでまだまだ時間がかかりそうだな!」
そう言って肩をバシバシ叩かれる。狼だからか力が強い。
「あ、そうだ、お前さんもこれ飲んでけ!喉乾いたろ!」
ガルさんがお茶をくれる。確かに日差しもあり、少し喉が乾いた。
俺がお茶を口にしようとした時、ミケが湯呑みを奪い取り、一気に飲み干した。
「あ!猫又、貴様!」
「うるさい!こいつは見習いだ!オヤシロ様の用意したモノ以外口にして良いわけないだろうが!」
「こまけぇことはいいんだよ!」
「ガルさん、すみません。ミケさんもやり方が乱暴すぎます!」
コロが間に入ってガルに再度理由を説明している。
コロもミケも、俺が元人間の見習いになるため、オヤシロ様の用意したモノ以外口にすることを禁じられているということにしているみたいだ。
(なんだか回りくどいな。)
そう感じてしまう。
「見習い、荷物。」「持つんだよ。」
「オヤシロ様のおつかいなら、ちゃんとするんだよ。」
コロの持っていた荷物を小さい子達は俺に渡してきた。
それを受けとるが、すぐに両手が塞がってしまった。
「落としたら、めッ、だよ。」「気をつけて。」
「帰るぞ。」
「失礼しました。」
そう言って、俺もガルに一礼すると、2人の後を追いかけた。
「お前、オヤシロ様の言い付け忘れたのか?ダメだって言われたろうが!」
「少しヒヤヒヤしましたね。」
「すみませんでした。でも、少しくらいは•••。」
そう言うとミケはため息をついて俺を見てきた。その目は怒っている、のか?
「最近のヤツは黄泉戸喫も知らないのか?」
「よも?」
「ヨモツヘグイ、です。」
その時に、小さい子達の1人がミケの裾を摘まむ。そして数人が一緒に近づく。みんな少し体がプルプルと震えている。
「ミケ、さっきのいじわる。」「いじわるは、めッ」「めッ」
きっと俺からお茶を取ったことを言っているのだろう。ミケのがたいはかなり良い。きっと怖いのだろう。
ミケはしゃがむと小さい子達と視線を合わせる。
「ごめんなさい。」
そして謝った。コロも驚いている。
「だがな、こいつはこいつでオヤシロ様とお約束をしているんだ。約束は破っていいのか?」
「だめ。」「やくそく、だいじ。」「やくそくやぶったら、こわいこわいになる。」
「そうだ。だから、約束を守るためにやった。やり方がまずかったか?」
「うん。」「やさしく。」「ミケ、やさしくなれー。 」
「はっはっは!そうか、そうか!わかった!優しく、だな! 」
そう言って大鳥居の前に着いた。
「じゃあな。」
「またね。」「ばいばい。」「さようなら。」
そう言って小さい子達は静かに影の中に帰って行った。
参道から本殿に向かう時に、先ほどのヨモツヘグイの話になった。
「ここはあなたの居た世界ではないので、この土地のモノをそのまま食べてしまえば元の世界に戻ることが難しくなります。 」
「だからオヤシロ様がお前のために特別なまじないをかけてんだ。わかったら次から気を付けろ。」
「そうなんですか。ミケさん、さっきはありがとうございました。」
「は?別に、礼なんかいらねぇよ。喉乾いてただけだ。」
ミケは素直じゃないだけで、優しいのだろう。
そんな様子を見てコロは尻尾を大きく振り、笑っていた。
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#伝奇