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「うへぁ……ぐわぁぁ……」
「何をうめいておるのじゃ」
午前中の授業が、ついさっき終わったところ。
俺は机に突っ伏していた。
でかい胸が“ふにょっ”と押しつぶされてクッションになる感覚。
……新しい。
なぜ突っ伏しているのかと言えば――
「なんで数学とか化学とかもあるのぉ……」
魔法学校の授業って聞いたら、普通はこう想像するよね?
・魔法陣の書き方!
・杖を使って羽を飛ばす!
・箒に乗って空を飛ぶスポーツ!
ノンノンノン。
蓋を開けてみれば――
ほとんど、元の世界と変わらない授業内容だった。
もちろん、《モンスター学》《サバイバル学》みたいな異世界特有の授業もあって、それは楽しみだけど……
数学。化学。社会。
社会はね、面白い。異世界だからこそ根本的に文化も違って、歴史の流れとか制度とか、つい聞き入ってしまう。
でも――数学と化学!!
これに関しては、マジで一ミリも新鮮味がない!!
数学はまぁ、必要なのはわかる。
でも化学って、なんでここでもやらなきゃなのさ!?って思ったら――
【炎魔法】などは、魔皮紙に魔力を通したとき、周囲の原子の構造が変化して、魔皮紙が“着火元”になる。
だから、その原理を知らないと応用ができない、と。
……なるほど。正論だけどさ。
それにしても、夢がないよ夢が!!
「苦手だぁ……」
「うむ、ワシも面倒だと思うのじゃ。こんなもの、知らなくてもなんとかなるのじゃ」
「うぅ……それって、でも“昔の僕”なんだよなぁ……」
「?」
「いや、気にしないでー……」
学生の頃。
勉強ができなくなった俺は、ずっとこう思ってた。
『なんとかなるだろう』『こんなの出来なくても生きていける』って。
でも――いざ社会に出てみたら、
授業で習ったことは“常識”で、“知ってて当然”として話が進んでいく。
そこでやっと気づいた。
常識って、覚えてないと置いていかれるものなんだ。
「うー……うううぅー……」
勉強したくない……
異世界の魔法学校、思ってたのと違うぅ……
「いつまでもうなってても仕方ないのじゃ。食堂に行くのじゃ」
「そうだねぇ……」
……わかってる。
奴隷である俺が、こんなふうに態度に出しちゃいけないってことくらい。
だから、気をつけよう。
後でちゃんと――マスターのルカには、謝ろう。
テンションがだだ下がりのまま、俺はルカと一緒に食堂へ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして――
「ふぁぁぁあ!? すっごい!」
食堂は、すごいことになっていた。
建物の構造的には、普通の社員食堂っぽい感じ。
でも、奥の厨房がすごい。
何がって――
調理してるのが、魔法なのだ!!
奥にはコックが何人かいて、それぞれの手元では魔法で包丁が浮いて動いてる。
しかも一本じゃない。六本くらい、同時にシュババババって高速カットしてる!
鍋をぐるぐる混ぜてるおたまも、魔法で勝手に動いてるし、
コックたちは魔法を使いながら、材料を出し、味付けをし、味見をし――忙しそうに調理してる。
手でやればいいじゃん?って思う?
チッチッチ。
これが、プロの魔法コックの領域である。
俺、見てるだけでテンションが爆上がりしてしまった。
「お主、情緒不安定なのじゃ……」
そう言われながらも、俺はピッと食券を買う。
……あ、それは普通なんだ。
「えーっと……『デルトニクスのチャーシャ』、『マルコトルのファイアー』、『ピルクドンのソテー』……」
……全然わからん。
何がどう“チャーシャ”で、どこが“ファイアー”で、何が“ソテー”なんだよ。
てかそもそも――デルトニクス? マルコトル? ピルクドン??
それ、魔物? 魚? それとも、植物?
どういう味か、誰か教えてくださいマジで。
……ていうか、みんなこれわかって買ってんの!? 本当に!?
「先に行ってるのじゃー」
「あ、え」
スーッとルカは食堂の奥へと進んでいってしまった。
え……ちょっと待って!?置いてかれたんだけど……!?
どうしよう、メニューもわからないし、列の並び方もわからないし――
「お困りですか? お嬢さん」
後ろから、落ち着いた低音の声が聞こえた。
振り返ると、そこには――
長身で、立ち振る舞いがいかにも貴族然とした、
“いかにもイケメン”な男の人が立っていた。
制服の胸元を見ると――《アリスト科》のマークが入っている。
「何を食べればいいか迷ってて……あなたのおすすめとかありますか?」
――“何が何かすらわかってない”が正解なんだけど、
それを悟られたら恥ずかしいから、知ってる風に質問してみる。
「ふふ、そんなときもあります」
そう言って、彼は柔らかく微笑んだ。
そして――
「あなたのように――その髪は朝露を照らす月の光、
その瞳は深き湖のように澄み、吸い込まれそうになる。
まさに、女神が気まぐれに地上へと舞い降りたようなお姿……」
「…………」
「そんな可憐で、美しく、儚げで、それでいて誰よりも存在感のある――あなたのようなお方にこそ、ふさわしい一品は……《レッドドラゴンのステーキ》ですね」
………………
………
なげえええええええええええええええええええええええええええええ!!!!
長いんだよ口説きが!くどいんだよ!
笑顔作って静止して俺だけ時間止まったみたいになってたわ!
というか口説きながら俺のオッパイや太もも見てるのわかるからな!てか!!!!!!
男だからな俺!!!!!!!!!
そんなに見たいなら
いっそ2人きりの時に胸とおしりだしてやろえか!!!!
てか第3の選択肢だよ!レッドドラゴンは!なんだその名前かっこよ!
「良ければ、私たちとご一緒にどうですか?特別に、《アリスト科》の席へご案内しますよ」
「《アリスト科》の席?」
「はい。わたくしども――高貴な者のみが集う、特別な席です。
もちろん、あなたのような方にこそ、相応しい場所でしょう……」
「せ、せっかくのお誘いだけど……友達がいるんで。また今度お願いします!」
「ふふ……はい、では“明日”で。」
……あ、あるぇ?
今、やんわり断ったはずなんだけど!?
なんで自然に明日の予約取られてんの!?怖ッ!!
これ以上話すとなんか、ヤバい。
貞操に関わる何かを察知した俺は、そっと笑顔でオススメの《レッドドラゴンのステーキ》を押して――
スススッと料理を取りに向かった。
すると――
「おっ、お嬢さん、ちょっと待っときな!」
厨房のコックが声をかけてきたかと思えば、
お肉の皿に、彩り豊かな果物のカットを丁寧に添えてくれた。
「ありがとうございます!」
すごい……! サービス精神の塊みたいな人だ――と思った次の瞬間。
「これもよかったらどうぞ、今日限定のスパイス焼きです」
「お肌にいいスープもつけとくね、お嬢ちゃん!」
「おぉぉ……あの美しさ、見てるだけで目が浄化される……このプリンを!ぜひ食べてほしい!」
「ついでに俺の気持ちも盛っといたから!」
……え?
いや、え?
なんかおかしくない!?
気づけば――
俺のおぼんの上には、メイン・スープ・サラダ・果物・プリン・パン・謎ドリンク×2・花……?
「ありがたいけど……食べれるかな……」
そう思いながらいっぱいになった
おぼんを持ち、ルカを探して――そして、見つけたのだが。
「ルカさんって言うのか、かわいいね!」
「……」
「食べてる姿もワイルドでギャップがすごいかわいい!」
「……」
「ねぇねぇ、声、聞かせてよ?」
「食べてるのじゃ」
「喋った!かわいいッ!!」
……なんで。
なんでルカの周りに人が集まってるの!?
ルカは人混みの間から俺を見つけたらしく、軽く手を振ってくる。
「アオイ、やっと来たのじゃー! 早くしないと“昼休みなるもの”が終わっちゃうのじゃ!」
一斉に、みんなが俺のほうを振り向いた。
……うわぁぁ、視線が痛いぃぃ……!!
ていうか何だよ、この人混み! マジでアイドルのファンミか!
「う、うんごめん! そっち席あいてなさそうだから……こっちはこっちで――」
そう言いかけた瞬間、
無言で――全員が道を開けた。
ルカの正面の席に、“どうぞ”と言わんばかりの超スムーズなスペースが。
……え、何この無音の威圧感……!?
さっきまでザワザワしてたのに、なんか空気ごと静まり返ってるんだけど!?
「ほら、空いたのじゃ。それとお主――」
「?」
「その後ろの人だかりは……なんじゃ?」
「え……?」
恐る恐る振り返ってみると――
俺の後ろにも、大量の人がいた。
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《モルノスクール公式教本・基礎魔導理論 第3章》
■ 魔皮紙(まひし)
魔物の素材を合成・加工して作られた媒体。
使用者が魔力を通すことで、素材の性質に応じた魔法が発動する。
素材となる魔物によって、発動する魔法の属性や挙動は大きく変化する。
熟練した魔術師は、魔皮紙の性質を読み解き、多様な応用魔法を操る。
■ 魔法適性について
極めて稀に、魔皮紙を必要とせず、自身の魔力のみで魔法を発動できる者が存在する。
このような者を【魔法適性者】と呼び、魔法の才能に恵まれた存在とされている。
すべての人間は、何らかの魔法に対して“適性”を持つとされているが、
その適性をどう引き出すかは個人差が大きく、未だ明確な法則性は解明されていない。
なお、獣人種は生まれつき魔力と身体の親和性が高く、適性を引き出しやすい体質とされる。
――第3章より抜粋