Scene 26:DM画面の前で、彼は指を止める
審査を終えたあと、
デスクに肘をつき、
スマホをゆっくり手に取った。
画面を開く。
SNSのアイコンが並ぶ。
その中に──
ハムスター さんのアイコンがある。
胸が少しだけ熱くなる。
「……開くだけなら、いいだろ」
自分に言い訳するように、
彼はそのアイコンをタップした。
DMの履歴が表示される。
短いやり取り。
丁寧な言葉。
少し遠慮がちな文面。
でも、どこか温かい空気を持ったメッセージ。
スクロールしながら、
その時の自分の気持ちを思い出す。
この子、優しい絵を描くな……
「どんな人なんだろう」
あの時の興味が、
今はもう少し違う形になって胸に残っている。
指が、
“新しいメッセージを作成” のボタンの上で止まる。
押せば、
あなたに届く。
押さなければ、
何も変わらない。
彼は息を飲んだ。
「……ダメだろ、これは」
審査員として。
大人として。
元先輩として。
押してはいけない理由はいくらでもある。
でも──
押したい理由は、
たったひとつ。
きみの絵が、
僕の心を動かしてしまったから。
指が震える。
押さないように、
スマホを置こうとする。
でも、
置けない。
胸の奥で、
あなたの絵の色がまだ揺れている。
「……どうすればいいんだよ」
彼は目を閉じた。
迷いと、
願いと、
抑えきれない気持ちが、
静かにせめぎ合っていた。
Scene 27:送れないはずの言葉が、指先に宿る
DM画面を開いたまま、
彼はしばらく動けなかった。
“新しいメッセージを作成”
そのボタンの上で、
指が震えている。
押してはいけない理由は、
いくらでもある。
審査員だから。
立場があるから。
大人だから。
元先輩だから。
でも──
押したい理由は、
たったひとつ。
絵が、僕の心を動かしてしまったから。
胸の奥が熱い。
静かに、でも確実に。
彼はスマホを置こうとした。
でも、置けなかった。
「……こんなの、ずるいよ」
絵が、あの頃の記憶を全部呼び起こしてくる。
職場での有莉澄さんの姿。
小さな声で「すみません」と言っていた横顔。
ミスをして落ち込んでいた時の震える肩。
それでも必死に頑張っていた背中。
そして──
あの時、
言えなかった言葉。
「大丈夫だよ」
「無理しなくていいよ」
「君は優しい子だよ」
その全部が、
今になって胸の奥で溢れてくる。
彼はゆっくり息を吸った。
「……送らない方がいい。
でも……送らなかったら、きっと後悔する」
迷いはまだある。
でも、
迷いきれない気持ちの方が強い。
画面を見つめたまま、
指をそっと動かした。
新しいメッセージを作成”
タップ音が、静かな部屋に小さく響いた。
画面に表示される入力欄。
そこに、指がゆっくりと文字を刻み始める。
「お久しぶりです。
作品、拝見しました。」
その一行を書いた瞬間、
胸がぎゅっと締めつけられた。
「……ここまで来たら、もう戻れないな」
でも、
戻りたくなかった。
有莉澄さんの絵が、僕を前へ押したから。






