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128 - 第80話:安心数学の日

2025年12月17日

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安心数学の日


朝の教室。


床には緑のライン、天井には心理波を検知する淡いランプ。

黒板の横に掛かる安心旗は、墨染めの布に緑丸がゆっくり明滅していた。


まひろは水色のパーカーに黄緑のショートパンツ。

ランドセルを机に置きながら、周りの空気をそっと窺っていた。


今日の授業は“安心数学”。


雨国崩落後に作られた新科目で、

大和数字(イチ・ニ・サン) と 算盤 を中心に学ぶ授業だ。


先生が入ってくる。


先生は灰色のジャケットにモカ色のチノパン。

胸元には“教育安心監査章”が光っている。


「はい、みなさん、おはようございます。

今日は“大和数字”と“安心算盤”の基本操作を学びます」


黒板にチョークでこう書いた。


イチ

サン


その下に漢字の「一 二 三 四」が添えられる。


「ここ、大事です。

英数字は雨国崩落以降、統制外語とされました。

私たちは“安心のために”大和数字を使います」


クラス全員が声を揃える。


「安心のためです」


■ 算盤の扱い方


先生は算盤を持ち上げた。

玉の一部には翡翠核を模した緑の丸い飾りがついている。


「算盤は電子計算より安心を生むとされています。

指を動かす行為が“迷い”を消すんですね」


後ろの壁に貼られたポスターにはこう書かれている。


【電子計算=不安の入口】

【算盤=迷いミナシ】


■ 授業開始


問題がスクリーンに写る。


【問題1】

サン に イチ を たす。


まひろは算盤に指を置き、慎重に玉を弾く。


カチ……カチ……


「……ヨン、です」


「はい、正解。素晴らしいですね」


天井の緑ランプが「心理波安定」を示す光を放った。


■ 迷い


【問題2】

ヨン から ニ を ひく。


まひろは指を止め、ぽつりと呟いた。


「……ひくって、前は“マイナス”って言ってたような……」


隣の席の女子が首を傾げた。


「あれ? そんな言葉あったっけ?」


教室の緑ランプが小さく明滅した。


■ 先生の反応


先生は微笑んだまま言った。


「“マイナス”……懐かしい言葉ですね。

でもその言葉は、雨国崩落の前に使われていた危険語です。

不安を連想させるため、現在は使用されません」


「……じゃあ、ぼく……なんで覚えてるんだろ……」


その瞬間、まひろの端末が小さく振動した。


画面に表示された通知:


【言語最適化:旧表現の記憶修正を推奨します】

【安心語:ひく を使用してください】


■ 放課後の教室


チャイムが鳴り、生徒たちは帰り支度を始める。


窓の外には安心旗が揺れ、中央の緑丸がゆっくり明滅していた。


まひろは算盤を片付けながら、小さく呟いた。


「……マイナス……あったよね……たしかに……」


誰も返事をしない。


言葉は記憶より先に書き換えられる。

雨国崩落後の大和国では、それが“自然”だった。


■ 結末


——暗い地下室。


緑のフーディを羽織ったゼイドが、まひろの授業映像を見ていた。


算盤を弾く小さな指。

“マイナス”にひっかかり、困惑する表情。


ゼイドは低く言った。


「数字を変えるのは文化じゃない。

記憶に触れることだ」


緑の光がモニターを照らす。


「言葉を奪い、数を塗り替え、

“安心”が唯一の正解になる。

……それが大和国の数学だ」

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