その日のワイドショーでは西村の不倫が大々的に取り上げられていた。
最近芸能界の不倫騒動が頻繁に続いていたので世間の不倫に対する目はかなり厳しい。
そんな中大手アパレル企業の御曹司でありアウトドアブランドの敏腕社長でもある西村の不倫が明るみになったのでテレビ局各社は競い合うように大々的に放映を始めた。
もちろん大手アパレル会社本社ビル前にもマスコミが殺到した。西村が緊急入院をしたと知っても取材の手を緩める事はなかった。
その日岳大の事務所に出勤した井上は部屋に入るなり慌ててテレビの電源を入れた。
キッチンでコーヒーを淹れようとしていた岳大が驚いて井上に聞く。
「ん? どうした?」
「佐伯さん大変です。早くこっちへ来て下さい、これを見て下さいよ」
岳大はコーヒーメーカーのスイッチを押してから井上の隣へ移動しソファーに座った。
するとテレビには西村の会社が入っているアパレル会社の本社ビルが映っていた。
「凄い騒ぎだね、何かあったの?」
「不倫ですよ不倫! 社長の西村の不倫が週刊誌にスクープされて大騒ぎです。僕、今その雑誌をコンビニで買って来ました」
井上は週刊誌を見ながら西村が載ったページを開いてリビングテーブルの上に置いた。
岳大はそれを覗き込み記事を読み始める。
「あれっ? この目に黒塗りがされている女性ってもしかして…」
「出版社の女性って書いてあるからもしかしたら山岳出版の朝倉さんですよね? うわー僕達でもわかっちゃうんだからきっともっと近い人にはバレバレですね」
井上は思わず苦笑いをする。
岳大は頷きながら記事を読み進める。そしてもう一人の女性の写真に注目した。
こちらの女性もやはり目には黒塗りがされていた。記事によるとその女性は西村の秘書という事だったが姿形や雰囲気がどことなく優羽に似ている。
「なんで不倫なんてするんだろうね。彼は妻も子供もいるんだろう?」
「僕もさっぱりわかりませんよ。彼は御曹司でしょう? で社長の地位にもいる。こんな軽はずみな事をしたら全てパアなのになんでこんな行動をしちゃうかなぁ? それに朝倉さんは提携先の社員だしもう一人も自分の秘書。仕事関係の女性に手を出すなんて最もやってはいけない事なのになんか浅はかですよね」
「ほんとだな……」
「それにしてもこっちの秘書の女性、なんとなく優羽さんに雰囲気が似ていませんか?」
「やっぱりそう思うか」
「うん、思います。彼はやっぱり優羽にさんに未練があるんですかね?」
「…………」
井上の問いに岳大は黙ったままだった。
記事を読み終えた岳大は優羽の事が心配になる。
いくら別れた元恋人とは言え彼は流星の父親だ。その男性が世間をこんなにも騒がせているのだ。
きっと動揺しているかもしれない。
今日優羽は山荘での仕事があるのでここには来ない。岳大は優羽の顔を見に後で山荘に行ってみる事にした。
ワイドショーでの西村の話題が終わると二人は漸く仕事を開始した。
その頃優羽はフロントの仕事をしていた。
昨日から泊まっていた60代の夫婦が今チェックアウトをして駐車場に向かったところだ。
二人の車を笑顔で見送ると優羽は再びフロントへ戻り事務作業を始めた。
その時ロビーのテレビから『西村隆』という名前が響いてきたので優羽はびっくりしてテレビを見た。
朝のワイドショーでは西村の不倫騒動を取り上げていた。優羽は驚きの表情を浮かべたまましばらくテレビを見つめた。
(あの西村が? それも二人の女性と不倫? )
優羽はもっと詳細を知りたくてテレビを食い入るように見つめる。そしてテレビを見ながら思い出していた。
あの日道の駅で再会した西村は確か妻と娘と一緒だった。
西村の妻は美しく上品で娘もとても可愛らしかった。傍から見たら絵にかいたような幸せそうな家族だった。
それなのになぜ?
その時テレビ画面に不倫相手の写真が大きく映った。女性二人はどちらにも目の部分に黒塗りがされていた。
優羽は片方の女性に見覚えがあった。
番組の司会者は女性二人が西村とどんな関係にあるかを説明した。それによると一人は出版社の人間だと言っている。
「あっ!」
優羽はその女性が山岳出版の朝倉亜由美だという事に気づいた。
そして朝倉がこの山荘に泊まった時優羽に文句を言って来た事も思い出す。あの時は確か忙しい岳大の邪魔をするなと言われたような記憶がある。
山岳出版は今『mountain top7』と提携しているはずだ。その関係で不倫へ発展したのだろうか?
その時優羽は西村のあまりの軽率さに呆れていた。いや呆れるを通り越しもはや嫌悪感しかない。
浮気癖は一生直らないと以前誰かが言っていたが西村にはつける薬もないようだ。
(なんて馬鹿な事を……何度も同じ事を繰り返すなんて愚か過ぎる)
優羽は思わず深いため息をついた。
まだまだ不倫の話題が続きそうだったので優羽はチャンネルを変えた。
そして何事もなかったかのようにカウンターへ戻る。
優羽は確実に強くなっていた。
たった一人で子供を産み育てここまで来た月日が優羽を確実に逞しくしていた。
そして何よりも今は岳大という大切な人と巡り逢えたのだ。
岳大は優羽と流星にこれ以上ないというくらいの深い愛情を注いでくれる。
その愛が更に優羽を強くしてくれた。
(私はもう過去は振り返らない。前だけを見て歩いて行くのよ)
優羽は心の中でそう呟くと笑顔を浮かべて朝食の片付けを手伝いに食堂へ向かった。
コメント
2件
愛され愛する、守られ守る。その事を知ると男女問わず強くなっていくんですね。 今の優羽ちゃんは強さと美しさを兼ね備えた魅力的な女性であり母なんでしょうね✨✨✨
西村はもうつける薬はないね🙅 自分で自分の首を絞めて家族にも会社にも相手にも迷惑かける人は社会から必要とされない。 可愛い娘がいるのにとても残念な家族🥲 それよりも優羽ちゃんは岳大さんの愛に包まれたら強くなったね✨ 心の支えが岳大さんだからブレないし丸ごと包み込んでくれる安定感がそうさせてるのね😊💓 岳大さんは当然心配してるけど、優羽ちゃんの強さを体感してますます惚れちゃいそう🥰😘💘