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🌟🎈(nrkr)/宇宙
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敵の残党を無感情に片付けた太宰は床に転がる中也の帽子と主を失った黒外套を拾い上げた
その中には自分のシャツの袖に埋もれてきょとんとした顔で座り込む小さな命がある
「…ちゅ、や?」
太宰が恐る恐る名前を呼ぶ
通常の中也ならこの呼び方だけで「手前の口を縫い合わせるぞ」と殴りかかってくるところだ
だが目の前の幼子は首をかしげて不思議そうに太宰を見つめるだけだった
「………………」
無言
怒気も殺意も信頼すらもそこにはない
ただ宝石のように澄んだ青い瞳が世界で初めて見るものを見るかのように太宰を映している
「…はは、本当に覚えていないんだね」
太宰の唇から乾いた笑いが漏れた
ポートマフィアの最高幹部、重力使い、相棒
そのすべてを忘れ、ただの無垢な子供になった中也
太宰の手がそのぷにぷにとした柔らかい頬を撫でる
中也は嫌がるどころか気持ちよさそうに目を細め太宰の指にすり寄った
「くっ…なんて残酷で素晴らしい薬なんだろう」
太宰は中也を外套で包み込み自分の胸にしっかりと抱き寄せた
通常なら首領の森鴎外に報告すべき事態だ
だが今この無防備な中也を他人の目に晒すなど太宰の独占欲が許さなかった
「行こうか。君の飼い主の家へ」
向かったのは武装探偵社の寮でもマフィアの拠点でもない
太宰が個人的に所有している秘匿されたセーフハウス
部屋に入るなり太宰は中也をベッドに下ろした
ぶかぶかの大人用のシャツから這い出してきた中也は短い手足でベッドのシーツを掴みよちよちと太宰の元へ歩み寄る
「…だ、ざ…おな、か…」
「お腹が空いたのかい?困ったな…ここには酒と蟹の缶詰しかないよ」
中也はふらつく足取りで太宰の膝にしがみつき潤んだ瞳で見上げてくる
かつての相棒が自分を頼り自分だけを視界に入れている
その事実に太宰の胸の奥でどろりとした暗い快楽が渦巻いた
「…中也、君を元に戻す薬は私が探してあげる」
「だからそれまでは────」
太宰は膝をつき中也の小さな額に誓いのような重いキスを落とした
「君の神様は私だけだよ。いいね?」
中也は意味もわからずただ太宰の首に短い腕を回し「………ん」と甘い声を漏らした
その瞬間太宰の理性がほんの少しだけ崩れる音がした
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