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戦争が終わった頃、旦那様は、香港を返却することを決意しました。
香港を中国へ返した後、主は、眠るように死んだ。唯一預かった遺言は、弟を頼むと、幸せになと、たったその二言だけの遺言だった。
「そうして、俺は、嫌われ者の英厳は人前には出なくなった」
「それが、俺のこれまでだ」
伏せたままの目をそっと閉じた。
「仏華と付き合うまでの成り行きなんて、お前等も知っているから良いだろう」
「なんにも、楽しくない話さ」
あぁ、笑えない。本当に、笑え無い。
「これで満足か?」
あぁ、英厳はいつまでも不器用なままだ。
心做しか、俺の口から出る声は、少し寂しそうだった。
「なんで、なんで、英厳兄様はそんなに自己評価が低いんですか?!貴方の弟全員、貴方に感謝していますし、大好きなんですよ」
目に涙を浮かべ、炎利は苦しそうな顔でそう言った。
「そうだよ。本当に、馬鹿な兄様」
笑いながら颯太はそう言う。
「そりゃ、誰だってさ、大好きな人が急に居なくなったら、悲しいでしょ?」
相変わらずフワフワとした雰囲気で炎加がそう語る。
「そんな……俺は、てっきり…………」
全くと言っていいほど動かなかった表情が、少し動いて、涙が零れそうになった。
「兄様が、口が悪くったって、優しいのは皆知ってるよ」
そっと微笑む炎加は俺の知っている今までのどの場面よりも嬉しそうだった。