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カタ…カタ…
キーを打つ音が、暗く静まりかえったオフィスに響いて不気味…。
もしかしたら、今残っているのってわたしだけかもしれないな…。
うちの社員はみんな退勤時間が早く、金曜ともなれば社内はあっという間にもぬけの殻になってしまう。
短時間効率を目指している、前衛的な社風だからだ。
わたしが勤めるこの会社は、オフィス関連の機器や消耗品を専門に扱う商社で、創業五十年を越え業界でも古株にあたる会社だけど、新規事業も着実に業績を収めていて収益も安定している。
それは幹部に敏腕が多いからというのもあるけれど…こういう社風にも対応できることが証明しているように、基本的にうちには優秀な社員が多いからだ。
…と言っても、わたしを含めた総務部の諸先輩方は例外と言えるかもしれないけど…。
わたし、三森亜海(みもりあみ)は、現在22歳。
地方から出て都市部の四大に通って後、奇跡的に内定をいただいたこの会社に今年から務めはじめた社会人一年生。
研修も兼ねてそれまで所属していた受付では、接客や郵便物の受け取りや簡単な書類作成などの庶務をやっていた。
単調で簡単な仕事ではあるけれど、のんびりとして優しいおばさま上司や同期の子たちとわきあいあいとできて楽しい毎日を送っていた。
けれど、社会は厳しい。
社会人生活にもすっかり慣れた秋に総務部への異動が決まって、そこから平凡な日常が一変した。
総務部は、とにかくキツイで有名な部署だった。
「キツい」とは、もちろん仕事が大変という意味もあるけれど、それ以上に、そこの先輩たちのキビシイ仕打ちをさして言われることの方が強かった。
とにかく、性格に難のある人たちが固まっていた。
気難しくて常に不満を抱えていて、口を開けば愚痴ばかり。
そしてそのストレスの発散対象となるのが、右も左もわからないわたしのような新人だった。
ろくに教育もフォローもされないでイジメにイジメまくられ、耐えかねた新人は追い出されるように異動してしまう。
なかにはすっかり滅入ってしまって退職してしまった人もいるという。
そんな社内でも「新人の墓場」と揶揄されるこの部署に、どうしてわたしみたいな引っ込み思案なドジが配属されたのか…世知辛さを感じずにはいられない。
まだ数か月しか経ってないけど、正直、もう数年いるような感覚におちいっていた。
異動申請を出したくて仕方がないけれど、どうにか自分に鞭打って思いとどまっていた。
なぜなら、今出せば最速記録を更新してしまうから…。
負けず嫌いでもなんでもないわたしだけど、さすがにそれだけは気が引けた。
それに正直言うと、いびられてしまうのは、やっぱりそれだけわたしがダメだからじゃないかな、って自覚もあった。
受付の仕事はデスクワークが少なかったからパソコンスキルが乏しくても困ることはなかった。
でも総務部がそうはいかない仕事なら、やっぱりきちんと鍛練しなきゃいけないし、ミスなんてもってのほかだ…。
うん…。
きっと…先輩たちは厳し過ぎるだけだよね。
イジメは愛のムチ。
異動した今までの子たちは、ちょっと時代錯誤なスパルタ教育についていけなかっただけ。
そうやって自分を叱咤して耐えしのばなきゃね…うん…。
と、言い聞かせてみるものの。
「この大量のリスト…どうやってさばけばいいのー…」
カラカラカラカラ…マウスのホイールボタンを回しながら、わたしは大きなため息をこぼした。
『だぁーいじょぶだってー。昨日だってあんなにやっかいな仕事ひとりでやっつけたじゃなーい?』
…先輩サマ、なにをご冗談を。
昨日のは『まさかの奇跡』ってやつなんですよ…。
実は、昨日もわたしは似たような成り行きで残業に追い詰められていた。
管理している親交会の帳簿残高が合っていないために、百人近い社員や臨時職員の出欠状況と複雑な会費金額をいちから確認するという作業。
けど、実務的にエクセルを使いこなせないから全然進まないし、寒いし、疲れたし、お腹は空いたし、で集中力がカツカツになってきて…。
なのに『明日までに必ず合わせなさい』と強く言われていたから…もうどうしていいのかわからなくて追い詰められちゃって―――。
ついには涙が込み上げてきた…。
決壊してしまえば最後。
この数か月、耐えに耐えてぼろぼろになった心は、あっけなく崩れ落ちてしまった。
泣いて泣きじゃくって泣き疲れて…。
挙句には子供みたいにウトウトしてきたそんな時―――
あの夢を見た。