「でね、次のテーマはそれね」
「…………」
「ざっと見てわかるかしらぁ?」
「なんだこの『ユー・ガット・メール』ってーのは?」
「あらぁ名作映画知らないの? よくそんなんで小説家やってられるわねぇ」
「____だからなんなんだってーの!」
「今の若い子だったら人に聞かないですぐにスマホで調べるわよー」
「お、俺はスマホの文字を打つのが遅いんだっ」
「もうしょうがないわねぇ……ちょっと待ってて」
悦子はノートパソコンを開くと『ユー・ガット・メール』を検索して画面を表示する。
「これよ! 平成映画ラブストーリーの代表作!」
「___トム・ハンクスが恋愛映画に出てたのか……相手はメグ・ライアン、キュート系か。ん、でそれがどうしたんだ?」
「こーゆうのを作って欲しいのよぉ」
「こういうの? ってかこれってどんなあらすじなんだ?」
そこで仁はあらすじを読み始める。
「デカい書店系の御曹司が小さな書店をぶっ潰そうとする。で、敵同士の二人は実は匿名でメル友になってた。メル友同士の二人は相手が敵だとは知らずに互いに惹かれ合う___なるほどねー、こういう設定にしろって事?」
「違う違う同じにしたらパクリでしょう? それは駄目よぉ。あらすじは変えて頂戴。ただね、二人の出会いだけはメル友からのスタートにして欲しいの」
「メル友スタート? んじゃマッチングアプリでの出会いっていうやつか? なんかロマンがねーなー」
「マッチングアプリは駄目よ! あくまでも『メールフレンド・メール友達』って設定でお願い。出会い希望とか下心のないメールのやりとりよ。うーんそうだなぁ、昭和的に言えば文通?」
「文通? そりゃまた古風な」
「そうなの。あえて古風にアナログにって感じよ。四作目はこの映画を観ていた世代が見たいようなドラマを作る事が目的なのよ。今ってさぁ若い子向きのドラマばっかりじゃない? だからこういうドラマを仕掛けてみようと思って。まあ実験的にね」
「なるほどねー、確かに昔みたいなフツーのドラマが減ってるよなー」
「でしょでしょ? だからとりあえず出会いの設定は『純粋なメル友サイト』に登録した男女二人がそこで出会い交流を重ねる____そこからスタートして欲しいのよ。もちろん路線は純愛&ハッピーエンドでよろしくねん」
「了解。でもさ、俺そういうなんだ? メールフレンド? そういうのやった事ないんだよなー」
「マッチングアプリは?」
「マッチングアプリは昔一度やって散々な目に合って___」
「キャーッ! ベストセラー作家がマッチングアプリやっちゃったんだー!」
「うるせえ、小説のネタのためにあえて体験してみたんだよ」
「で、どうだったの?」
「パパ活希望のぶっさいくな女が来やがった」
「キャー会ってるしー! やばいやばい。っていうかああいうの結構ヤバい人来たりするからあんた気をつけなさいよ。一応著名人なんだし」
「ああ、もう懲りてやってねーよ」
「まあね、年取って淋しい気持ちはわかるけどさ、焦って変な女掴まえたら人生台無しになる事だってあるんだからくれぐれも気をつけなさいよ」
「わかってるさ」
「はい、そこでこれー!」
悦子は一枚の紙を仁の前に置く。
「なんだこれ? 『月夜のおしゃべり』? 場末のバーみたいな名前だな」
「バーじゃないわよ、それ『メールフレンド』を探せるサイトなの」
「マジか? そんな昭和の遺物まだあったのか?」
「うん。でもそれは割と新しいサイトなの。以前うちの局でそのサイトを運営している会社のCEOを取材してね、まだ30歳のやり手エンジニアなのよ。彼は以前はGaagle Japanにいて独立してから色々なサイトを運営しているの。今回スポンサーでついてもらう事になったからドラマに出て来るサイトはここをイメージしてね」
「スポンサーならしょうがねぇな。でもこれをどうしたらいいんだ?」
「あんたやってみなさいよ。まずは体験してみて書いたら? 顔の知らない人とのメール交換っていうのはどういうものかってね。あ、ちなみにそのサイトは割と高学歴の真面目な人が多いって話題なのよ。運営者の㈱サイバースノーのCEOはそこで奥様と出会ったらしくてそれで一気に知名度が上がったみたい。まあ時にはチャラい出会い目的の勘違いした人もいるみたいだけれどそういうのは無視すればいいみたいだし」
「ハッ? 俺はそんなのやってる暇ねーぞ」
「ふんっ、どうせ暇なんでしょう? 家にいて一日中誰とも話さない日があるんじゃないの? そんな生活してたらあっという間にボケちゃうわよ。それに別に電話じゃないんだから暇な時に返事返せばいいんだし」
「そうは言ってもなぁ、それに知らない人と何を話せばいいんだ?」
「そんなのなんだっていいじゃない。いっつも飲み屋でおねーちゃんにベッラベラ話しかけてるんだからあんな感じでいいのよ」
「…………」
「まっ、そういう事だからよろしくぅ! 何かわからない事があったら連絡してねー」
悦子はノートパソコンを持って立ち上がると、右手をひらひら振って会議室を後にした。
その場に残った仁は顎髭を手で触りながら言った。
「メールでの出会いか」
しばらく難しい顔をして考え込んだ後、仁は会議室を後にした。
コメント
4件
始まりますね〜(〃'艸'〃)キャー🍀✨ 仁さんは膨大なメッセージの中から綾子さんのメッセージを見つけた。多分他のとは全く違う文章だったと思う。うわぁ〜もうダメだ‼️また妄想が止まらなくなってきちゃってる😅 仁さんアナログなのね😂そこもまたみ・りょ・く💘
なるほど~🤔 ドラマ制作のための体験 取材から、綾子さんとの交流が始まるのですね....🍀楽しみです🎶
ここから始まるんですね。綾子さんと神楽坂さんの物語が💓💓💓